東京五輪17日間の光と影 罪なきアスリートに及ぶ人権侵害、照らされた世界の現実
オリパラで変わらなければならない日本社会の課題が浮き彫りに
また今大会は、ジェンダー平等に関する意識が一歩進んだ、象徴的な大会でもあると思っています。
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私は今年2月の森喜朗元会長の女性蔑視発言後に発足した、組織委のジェンダー平等推進チームにアドバイザーとして就任しました。その後の短い期間の中で、大会を通してできることを模索してきました。
その中で、IOCが作成した「ジェンダー平等のための表象ガイドライン」を組織委の來田享子理事と共に和訳。これが大きな反響を呼びました。国際的にもスポーツの報道からジェンダーの偏見をなくそうと呼びかけるものですが、日本でも「美しすぎる」など容姿や私生活の話題が多い女性アスリートの報じられ方に多くの人が違和感を抱いていたからこそ、ここまで反響があるのだと思います。
ちょうどガイドラインの和訳の発表の時期に、ドイツの女子体操チームがセクシズム目線に対抗するために足を覆うオールタイツの「ユニタード」を着用したこと、ノルウェーの女子ビーチハンドボールの選手たちがビキニではなく短パンを穿いて罰金を課せられたニュースが重なり、スポーツにおけるジェンダー差別の問題が一躍話題になりました。
オリパラを機にこうした議論ができることはありがたいと思いますし、今までの「当たり前」を考え直す機会になっていることを願います。今後もスポーツ界や社会で確実に変化に繋げていけるよう、議論を継続させていければと思っています。
思えば、1年半前の3月19日、アテネで森喜朗元組織委会長の代役としてギリシャ側から聖火を引き継いだ私が、そのおよそ一年後に、組織委のジェンダー平等推進チームのアドバイザーになり、このような形でオリパラに関わることになったのは、今考えても不思議な縁でした。それがきっかけで、アスリートやスポーツ関係者を対象にしたジェンダーやSDGsの勉強会を始め、アスリートたちとの学びの素敵なご縁から一般社団法人「SDGs in Sports」設立まで繋がっていきました。
準備段階からコロナ禍の影響や色々な不祥事はありましたが、オリンピック、パラリンピックを契機に、日本社会はもっと変わらなければならないことが浮き彫りになったと思います。間違ったことを間違っていると言うこと、謙虚に学び続けること、自分の行動を理想に近づけていくこと、声をあげていくこと。見て見ぬふりをせず、非難ばかりするのではなく、正しい行動を皆で繰り返していければと思います。
そのための勇気とインスピレーションを、私たちはオリンピックから十分感じ取れたと思います。これから始まるパラリンピックは、もっと私たちに勇気を与えてくれると信じ、選手たちを力いっぱい応援したいと思います。
■井本直歩子 / Naoko Imoto
3歳から水泳を始め、小学6年時に50m自由形で日本学童新記録を樹立。中学から大阪イトマンに所属。近大附中2年時、1990年北京アジア大会に最年少で出場し、50m自由形で銅メダルを獲得。1994年広島アジア大会では同種目で優勝する。1996年、アトランタ五輪に出場。千葉すず、山野井絵理、三宅愛子と組んだ4×200mリレーで4位入賞。2000年シドニー五輪代表選考会で落選し、現役引退。スポーツライター、橋本聖子参議院議員の秘書を務めた後、国際協力機構を経て、2007年から国連児童基金職員となる。2021年1月、ユニセフを休職して帰国。3月、東京2020組織委員会ジェンダー平等推進チームアドバイザーに就任。6月、社団法人「SDGs in Sports」を立ち上げ、アスリートやスポーツ関係者の勉強会を実施している。
(井本直歩子 / Naoko Imoto)