清水希容が追求した「形」の真髄 「スポーツなのか」という人にも伝える究極の4分間
練習場で見せた「生」の凄み「空気を肌で感じてもらいたい」
空手界発展の機運を高めるべく、金メダル候補として広告塔に挙がった。普及活動に尽力。東京ドームでプロ野球の始球式にも登板した。一日に5、6社の個別取材を各1時間ずつ受ける日も。「すみません、お手洗いに行っても……」。各社の取材時間が詰まりすぎて苦笑い。似たようなことを聞かれても、ルールや魅力、形とは何たるかを懇切丁寧に伝えた。
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取材でもハキハキと話す。名刺の受け渡しでも背筋を伸ばし、凛とした姿勢を崩さない。「入社した時に習ったので」と“形”も完璧だ。
競技発展のためにメディアやイベントに出演するアスリートに対し、「もっと練習に時間を」と批判を投げかける人がいるが、それは適切ではない。最大限の練習をした上で発信していた。
「すごく悩んだし、苦しんだ」というのは、空手が日本発祥の武道だったから。「勝って当たり前」と言われる。「でも、そういう世界じゃない。世界は簡単に勝てない」。形の追求と、目前の大会で結果を残すことの狭間に立たされた時もあった。
「私はチャレンジせずに勝つよりも、負けてもチャレンジした方がよっぽど価値があると思う。でも、負けたくはないんです。負けるのだけは本当に嫌。勝ちながらチャレンジするのが理想です。やっぱり自分が一番じゃなきゃヤダ」
小学生で「楽しい」と熱中し、中学で「悔しい」と泣いた。高校生で「1位になれた嬉しさ」を味わい、日本代表になったら「苦しい」と悩んだ。多くを学んだ空手人生。「勝ち負けでやっていない」という言葉は、負けた時の言い訳でも、負けてもいいという意味でもない。形は人生を映し出す鏡であり、「人の心にどれだけ残すか」を最も大切にしてきたからだ。
「生で見てほしい。映像では届かない雰囲気、勢い、表情。立体じゃないとわからないものがたくさんあるんです。生で見てもらった方が伝わる。空気を肌で感じてもらいたい」
清水の練習を見学したことがある。学校の教室より少し広いくらいのコート。たった一人、大鏡に映る自分と向かい合っていた。無音の空間で技の名前の絶叫。普段の愛らしい笑顔は一瞬で消えた。響くのは胴着のきぬ擦れ音。突如生まれた緊張感に息が詰まった。数分後、汗を滴らせ、凛とした姿勢で一礼。「生」の凄みに圧倒された。
表現の深みは人生経験によって増す。それを学ぶために他分野の研究に足を運んだ。フィギュアスケート、オーケストラ、劇団四季、市川海老蔵の歌舞伎。「やっぱり表現って面白い。それぞれの世界で常に全力。だからそれぞれの味がある。空手と一緒。生で見ると空気感、スケール、感じるものが違う」。採点競技の体操、男子の形にも目を光らせた。