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清水希容が追求した「形」の真髄 「スポーツなのか」という人にも伝える究極の4分間

金メダルが決まった瞬間のサンチェス(手前)と清水【写真:ロイター/アフロ】
金メダルが決まった瞬間のサンチェス(手前)と清水【写真:ロイター/アフロ】

「世界一美しい空手の形」、追い求めた究極の演武とは

 追い求めているものとは何か。かつてこう語っていた。

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「自分で体現すること。『この動きが人間にできるの?』と思ってもらえるところまで体現したい。人ができないことをできるようにする。現実でこの技をやったら人は倒れるだろうなって思わせられるように。そういう鍛錬をしていきたい」

 評価基準はいくつかあれど、精神的なものが形の魅力を最も左右するという。

「感謝、謙虚さ、人間性。中でも一番は人間性だと思う。経験が浅いと何も生まれない。いろいろな経験を基に表現したり、感謝の思いを乗せたり。形には完成がないからこそ、見た目ではわからない。表現は永遠に繋がっていく。競技を辞めても空手は続くと思います。だから魅力的。もっともっと鍛錬して、自分の知らないことを勉強したい」

 言葉では簡単に表現できない領域。そんな究極の演武を一度だけ見たことがあるという。12年世界選手権で優勝した宇佐美里香さんの演武だ。今でも「世界一美しい空手の形」と称される。決勝で見せたおよそ3分の演武。静まり返った会場は技を打つごとに感嘆の声を漏らし、拍手を送る。次第に音量は増していった。終了後、満員の客席は総立ちで大歓声。清水は胸を打ち抜かれた。

「形で総立ち、そんなことあり得るんだ。超えたい。宇佐美先輩以上になりたい」

 毎回必ず行われるようなショーのそれとは違い、見る者の手を自然と動かした伝説の演武。「あれだけ観客を認めさせた人って歴代でいないんじゃないか。あの形を超えるために空手をやっている」。27歳。空手界では若手と自認している。「年上の先生方からすれば、私なんてまだまだ。ペーペーです(笑)」。終わりのない奥深き世界で生きている。

 人生をぶつける東京五輪の観客席に人はいなかった。だからって戦いをやめるわけにはいかない。常に上を追い求めるのが信条。空手の魅力を世界に伝える絶好機だ。世界女王サンドラ・サンチェス(スペイン)との決勝。拳に感謝の思いを乗せ、およそ4分間の演武で生き様を表現した。

 叫び、技を打ち、飛び、目を見開き、呼吸を整え、汗を流した。結果は銀メダル。勝ち負けでやっていなかったとしても、やっぱり悔しかった。最後まで気丈に振る舞おうとしたが、これまでの支えを想像すると涙が止まらない。

「今日は一つ一つ気持ちを込めて、全部決勝と思ってやりました。やっぱりここまで来るのに凄く……凄くしんどかったので、ここで勝ちたかったんですけど……悔しいです。まずはこの舞台に立たせていただいたこと、本当にオリンピックを開催できるかわからない状況で開催していただけたこと、本当に感謝しています。こんな経験はもうできないと思うので、貴重な経験をさせていただいたなと思います。

 武道の聖地である母国でしっかり優勝すること。5年間ずっとその思いでやってきていたので……やっぱり悔しい気持ちがある。けど、何よりもここまで支えて来てくださった人たちに感謝したい。銀メダルではあるんですけど、しっかりこのメダルを見てもらえたらと思います。『清水希容』という自分にしかできない形を演武したいという想いでこの舞台に立てた。今日は自分の演武をだいぶできたなと思うので、そこは胸を張っていけるかなと思います」

 3年後のパリ五輪、空手は行われない。今日、迎えたオリンピックという最大の舞台。どれだけの人の心に響いたのだろうか。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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