世界8000万人の難民の希望背負って イラン人選手が国籍失っても、もう一度夢見たメダル
1回戦の相手は奇しくもイラン代表の元チームメートだった
奇しくもアリザデの1回戦の相手は、イラン代表の元チームメート、ナヒド・キアニだった。キアニのコーチ、メフロ・カムラニは2年前までアリザデのコーチでもあった人だ。
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カムラニは言う。
「大変な日でした。2人は元チームメートで、友達だったんです。彼女たちがこの試合でどれだけのプレッシャーを背負っていたか、想像できますか?」
アリザデは、ただ勝つことだけに集中した。自分を証明するために、どうしてももう一度メダルを獲らなければならなかった。
たとえ国籍がなくなっても、一人の競技者であることを証明したかった。差別を受け、人権を侵害され、知らない国で難民となった。
「一競技者として、女性として、人間として、リスペクトされることが、とても重要なんです」(アリザテ)
アリザデは、18-9で元チームメートのキアニを下し、2回戦に駒を進めた。2人とも、試合後の記者会見に出席しなかった。
2回戦でアリザデは、これまでオリンピックで2連覇をしている英国代表のジェード・ジョーンズを破った。一夜にして、彼女はメディアの注目を集め、難民選手団初のメダル獲得の期待はグッと高まった。
しかし、アリザデは次の準決勝と、銅メダルを懸けた3位決定戦でどちらも敗れ、彼女の夢は潰えた。
敗戦の後、アリザデは無観客の会場を一周した。
イランの国旗を振りながら。
(井本直歩子 / Naoko Imoto)