「『強い』を超えた『怪物』と言われたい」 阿部詩が柔道家として求める強い女性像
勝者として追われる者の苦しみを味わいつつ目指す東京五輪の金メダル
その後の阿部の活躍は言うまでもなく、彼女の戦績には毎年「優勝」の二文字が並んだ。そして追う者から、追われる者へ。
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「追いかけるときは勢いや上り調子で追いかければいいけど、いざ自分が一番になったとき、私も今、経験しているんですけど、追いかけられる立場というのはこういうことなんだと。それまでは高校生だったし、感じたことがなかったんです。ずっと挑戦者で、追う立場で柔道をしてきたので。
でも、今はなんていうんですかね……。大きな壁が自分の目の前に立っている感じがして。でも私には、それを乗り越えている兄がいるので、本当に心強い。もちろん私の壁は自分で乗り越えないといけないんですけど、追いかけられる立場って本当にきついなと思っていますね」
世界大会で優勝しても、五輪出場を手に入れても、勝負の世界はそれで終わりではない。もしかしたら、頂に立ってからが本当の戦いの始まりなのかもしれない。阿部は今、頂点に立った者のみに与えられる追われる者の勲章と戦っている。それでも最高のお手本となる心強い存在がいる。
「兄は本当に尊敬する柔道家であり、私の前をいつも走ってくれている存在。どんなときも、私より先に経験していることが多いので頼りになるというか、心強い存在です」
10代の頃は、先を走っていた兄の後ろで「阿部一二三の妹」と称されていた。当時を振り返り「一人ひとりを見てほしかった」と吐露したが、もはや昔の話だ。今では「52キロ級の阿部詩」として、多くのメディアに取り上げられるようになった。そして、来たる7月25日。66キロ級の兄・一二三と一緒に東京五輪の畳に立つ。
「私が優勝することによって、今まで支えてくれた方、関わってくれた方、全員に恩返しができると思います。むしろ、優勝することでしか恩返しはできないと思っているので、勝って、感謝を伝えたい。でも、それができるのは自分しかいないので、しっかりと東京五輪で優勝して関わってくれたすべての方に感謝の気持ちと、勇気と感動を伝えられたらと思っています」
これまで、スポーツの世界は男性アスリートを中心に語られることが多かった。「スポーツといえば男性という意識が強かったと思うのですが、女性は女性ですごく魅力的な部分があると思うので注目していただきたいですし、逆に男性に負けてられないなという反骨心みたいなものもあります」と当事者としての思いもある。だからこそ、女性アスリートとして伝えたい思いがある。
「女性は弱くないんだぞ、というのを伝えていきたい。そこは自信を持って発信していきたいです」
阿部詩、20歳。
「『本当に強い』という表現を超えた『怪物だな』っていうふうに言われたい」
そんな強い女性像を求めて、まずは東京五輪で52キロ級の頂を目指す。
(THE ANSWER編集部)