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世界一過酷なヨットレースを完走 最強のチームを作った白石康次郎の“モテモテ理論”

裂けたメインセール【写真:DMG MORI SAILING TEAM提供】
裂けたメインセール【写真:DMG MORI SAILING TEAM提供】

「本当にやるの?」 スタート直後の大ピンチをいかにして乗り越えたのか

「本当にやるの? やるのはオレだよ」

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 白石は思わず苦笑を浮かべたという。高さ29メール(ビル7階相当)のマストを上り、重さ約100キロのメインセールを下ろす重労働。そして、船底の床をはがして甲板まで持ち上げ、平らな急造の作業台を完成させなければいけない。そこから、ハサミと接着剤を使って裂け目を丁寧に重ね合わせて修復する。激しく揺れる船、足元は常に不安定、電源も限られ、ライトを照らすこともできなかった。

「それでもやれっていうんだよね。本当にひどいよね(笑)」

 ゴルフのドライバーの飛距離は380ヤードを誇り、スクワットも200キロ以上とサッカー日本代表級の脚力を持つ怪力の白石でも未体験の領域だった。船酔いに苦しむスキッパー(船長)はカーペンター(大工)へと早変わり。フランスにいる地上チームとの連係により、何とか約1週間かけて復旧した。レース後、白石は「再び上がったメインセールを見たときが一番印象深いかな」と目を細めた。奇跡の完走へ、第一歩を踏み出した瞬間だった。

 前回大会はマストが折れ、無念のリタイアとなった。今大会に向け、「モテモテ」理論を実践した。白石は2019年1月からフランスでは伝説的なスキッパーとして知られるローラン・ジョルダンの門をたたいた。今大会、「ジョルダン組」の生徒は、ヤニック・ベスタベンが優勝、ジャン・ル・カムは4位と躍進。白石はゴール後の記者会見で「僕が一番出来の悪い生徒でした」と頭を下げ、「こんな、生徒ですが、忍耐強くいつも(トレーニングで)一緒に船に乗ってくれたので感謝します」と述べた。ほかにも、「バカを貫く」という人なつっこい笑みを浮かべ、欧州各国で知り合った一流の職人たちをチームに誘った。命を預け合う仲間が集った。初めての世界一周時にも2度のリタイアを決断した白石は、真剣なまなざしで言った。

「決断って、『決めて断ち切る』ってこと。同時に2つはできない。良い決断をするには平常心を保たないといけない。恐怖に裏付けされた決断は間違える。簡単に言えば自分自身の機嫌を良くするということだね。そのツールとして座禅も組む。でも、うまくいかない、機嫌を良くできない時は、もう運のいい人間に聞く。うまく行っている人に聞いて参考にする」

 スタート直後に迎えた絶体絶命のピンチを乗り切った「決断」もそうだった。メインセールの破損で途方に暮れたが、「自分よりも優秀」なスタッフは諦めなかった。いや、むしろ愛の鞭を打った。チーム内では、北大西洋から「まずは赤道を目指そう」が合言葉になった。そこから、南下して南アフリカ最南端のケープタウン→オーストラリア→南米最南端で「帆船乗りの墓場」も呼ばれるケープホーンと目標を一つずつクリア、北上してフランスに戻ってきた。白石は帆に向かって「調子はどうだ? 頑張れるか?」と呼びかけるのが日課になっていた。

 ラスト2日間は漁船との衝突に細心の注意を払うため不眠で舵を取った。94日21時間32分56秒。「奇跡の積み重ね」でフィニッシュを果たした。史上初の世界一周単独ヨットレースで優勝した恩師の多田雄幸から1988年にバンデ・グローブの存在を教えてもらってから30年以上。髪の色が黒から白に変わっても追い続けた夢の結実でもあった。華やかな成功の裏では、独自の「モテモテ」理論から生まれたチームが苦難に立ち向かいゴールへの道筋をつくり、導いてくれた。白石は、それを「映画『アポロ13』みたいだった」と表現した。

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