両膝に8度メスを入れた北嶋秀朗が語る 「怪我と向き合わなくていい」の真意とは
気持ちが少しラクになる、北嶋の持論とは
どうすればサッカー選手で居続けられるかを必死に、そして前向きに考えた。
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「2007年から2008年頃はつらかった。プレーできない時期も長かったし、もう無理かもと思いました。でも実際にグラウンドに立てば、上手くできるように考えるだけ。怪我をしたことでプレースタイルが変わって、怪我のおかげでサッカーを深く考えるようになりました。ネガティブになるのではなく、サッカー人生が動いていく感覚だった」
長期離脱中のリハビリはとても辛い時間だ。多くの選手にとっては試合で90分間戦うよりも、練習でどんなにハードなフィジカルトレーニングを課されるよりも、リハビリは一筋縄にはいかない。費やす時間の長さもさることながら、自身のメンタルをコントロールする作業が非常に難しい。
北嶋にはひとつの持論がある。
「リハビリは心の持ち方が大切です。最初の頃はいろいろと悩んでいたけど、一番しっくりきたのは怪我と向き合わないこと、リハビリと向き合わないこと。対面して向き合ってしまうと、どうしても難しい時が出てきてしまう。だから僕は隣同士になって一緒に前へ進んでいくことにしました。ピッチに復帰することを目指すのではない。周りのプレーヤーと比べるわけでもない。自分はプロサッカー選手であることを忘れて、リハビリのプロになろうと。
『向き合う』という言葉はカッコいいし、周りの人からすれば響きもいい。でも、怪我をしている本人からすれば絶対に難しい時期がある。だから以前の自分と比較することはやめて、新しい自分に生まれ変わろうと思ったんです。だからプレースタイルや動き方が変わっても、それをとてもポジティブなことに考えられるようになりました」
楽しかったわけではないが、一緒に歩くと決めた途端、気持ちがだいぶラクになった。日々のルーティーンは、作業から日常へ変わった。北嶋の1日は、膝との会話から始まる。
「朝起きて、まず膝の状態をチェックします。『機嫌はどうだい?』って(笑)。水が溜まっていることがあるので、曲げ伸ばしを繰り返して、必要ならアイシングしてから練習へ行く。ある部分を押すと水が何ccくらい溜まっているか分かるんです。だいたいのことは分かりますよ、だって友だちですから(笑)。
怪我をした当初は患部や自分自身に腹を立てていたけど、それではいけない。膝は可愛がれば、こちらの気持ちにしっかりと応えてくれます。夜、寝る前に膝が圧迫される感じの時があって、おそらく気圧の関係でしょうね。天気予報では明日が晴れになっていたけど、僕の膝としては雨予報。実際に雨でした(笑)。試合当日に膝の機嫌が悪い日もありました。そういうときは説得するんです。『今日はやるしかないんだ。頼むぞ。試合が終わったら、しっかりケアしてあげるから!』って。それが楽しかったです」