佐藤琢磨、43歳で現役にこだわる理由 若手が知るべき野心「リアルな姿を見てほしい」
日本人ドライバーの歴史と繋ぐ意識「僕はその1ページを足したに過ぎない」
◇日本人ドライバー育成の使命感が原動力
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また、鈴鹿サーキット・レーシングスクールの校長を務める佐藤にとって、後進のドライバー育成という使命も現役を続ける上でのモチベーションとなっている。
「自分がやるべきことはインディカーのトップとしてどう戦っているかというのを見せること。言葉で伝えるよりも結果を出して見せていく方が伝わりやすい。失敗したり、批判されたりもする。日本人やアジア人だからということで苦労も多いです、正直。でもそれをひっくるめて、この人はどうやって戦っているのかという、リアルなタイムラインを見てほしいんですよ。リザルトだけじゃなくて、過程を若いドライバーに見せるのは使命だと思っている。自分の目標として勝ちたいというのはありますけど、それだけじゃない意識も今は出てきましたね」
モータースポーツ界の未来を語る言葉が熱を帯びた。
そして佐藤は、若い人たちへ夢を持つことの大切さを説く。「夢をたくさん持って、目標を一つ一つクリアしていけばいつか絶対届くはずなんですよ。だって自分がそうだったから」。多くのトップレーサーが幼少期から英才教育を受けているのに対し、高校時代に自転車部所属だった佐藤がレースを本格的に始めたのは20歳を過ぎてからだった。
「ただの学生だった自分がいつか(プロの世界に)行きたいなって夢を見るわけですよ。レーシングスクールがあるのか、というところから始まり、届いたわけですよ。実現しない夢もあるけど実現できる夢もあるわけで。だから夢はたくさん持った方がいい。挑戦するのはほんと楽しいことですよ。夢を見ることの楽しさや、それを実現するために挑戦することの大切さを伝えていきたい」
枠にとらわれず、道を切り開いて夢を実現させた43歳の言葉には、説得力がある。
「自分が今ここで走っているのは先輩ドライバーが道を切り開いてくれたからなんですよね。ヒロ松下さんが日本人として初めてインディカーに挑戦してくださって、数々のドライバーたちが挑戦し続けてきた土台があったからこそ、日本企業も応援してくれる。そういう歴史の中で僕はその1ページを足したに過ぎないんですよ。現役にこだわってやり続ける限りは突っ走りますけども、いつかおりるときがくれば、それまでに若手が満を持してという状況になっていれば理想的ですね」
どれくらい先にその理想が実現するのか分からない。ただ、数々の偉業を成し遂げてきたレジェンドの一歩が、未来へ繋ぐバトンとなることを、本人は強く自覚している。
(岡田 弘太郎 / Kotaro Okada)