「逃げるな」 ブラインドマラソン道下美里を競技者へと変えた伴走者の言葉
選手と伴走者を繋ぐ伴走ロープ「そこから感じ取る感情の起伏はある」
選手と伴走者を繋ぐ50センチの伴走ロープを“きずな”と呼ぶ人もいる。ロープは単に2人を繋ぐための道具ではなく、ちょっとした気持ちの変化や心のあり方さえ伝える信頼の証でもある。
「普段の練習でも、走っていて伴走ロープのたるみ具合で、伴走者が今日は練習に集中しているなっていうのが分かるんですよ。腕振りにしっかり合わせてくれたり、私が走りやすいように工夫してくれたりすると、その気持ちが伝わってくるので、多分、伴走者も同じことを感じていると思います。単に繋がっているものですけど、そこから感じ取る感情の起伏はありますね」
感情が伝わるからこそ、伴走者とは真っ直ぐな信頼関係を築くようにしている。「私のわがままと捉えられることもあるんですけど……」と苦笑いをしながら、こう説明する。
「伴走者の方とは最初、練習をしてみて、どういう性格なのかな、どういう声を掛けてくれるのかなと、お互い様子を見ますが、人間同士の付き合いなので目が見えるとか見えないとか、だんだん関係なくなってきますよね。私たちには競技で結果を出すという大きな目標があるので、そこはお互い妥協しない部分もある。だんだん厳しくなってきて、私のわがままと捉えられることもあるんですけど、そこは競技へのこだわりということで(笑)。
でも、結局言いたいことが言えない関係だと、あとで絶対にボロが出てくると思うんです。なので、毎回練習の後はミーティングをして、まずは良かった点を伝え合って、その中で『もっとこうしたら良くなるよね』と提案をしながら話し合うようにしています」
ロープで繋がっている伴走者には「命を預けている」覚悟だという。走るということに関して、道下の感覚を「家族以上に熟知している」存在。そんな伴走者も含め、移動の支援、書類を読むことを含め情報収集の支援など、滞りなく競技生活を送れるようにサポートを続けてくれる“チーム道下”には感謝の気持ちでいっぱいだ。