なでしこ長谷川唯は「毎日の練習」が幸せ 1つの目標に依存しない新アスリート思考
真の意味で「楽しむ」を実践「サッカーがある生活だと毎日が充実している」
特定の目標に依存せず、「落ち込むことがない」というメンタルを競技に生かす。1つの目標にすべての犠牲を払うことが尊ばれる日本では、アスリートとして新しい価値観に思える。近頃は「プロサッカー選手」として、そんな個性を発信しようという意識が芽生え始めた。
特に、新型コロナで外出自粛が広がる中、所属事務所の「UDN SPORTS」が展開する子供支援「#つなぐ」プロジェクトなどで、香川真司、柴崎岳ら多くのアスリートが積極的にメッセージを発信する姿に刺激を受けた。
「そういう発信をできる選手は女子サッカーにはまだいないので、自分が1人目にならなくてはいけないと思っています。特に、プロリーグも始まる。プロサッカー選手として目標にされる選手になるのは当たり前にある目標。その“最初の人”になるのは、今後の女子サッカーにとっては大事。まだまだ実力、影響力を含めて足りないので、まずはサッカーで結果を出してからですけど」
さらに発展させたい女子サッカー界。他の女子競技と同様、「女子」というバイアスがかかり、競技力以外に評価軸が存在するという現実がある。例えば、ビジュアル先行も、その一つ。しかし、長谷川は冷静に受け止めている。
「競技の枠の中でサッカーだけで評価してもらえたらいいとは思うけど、外見というのも、それぞれ自分の武器だとも思います。実力がまだ伴っていないのに取り上げられてしまう選手もいなくはないし、そういう選手にとってはイヤなことかもしれない。でも、自分だったらラッキーと思って、そこから評価に見合うように頑張ればいいと思っています。
外見、性格から好きになってもらって、自分のプレーでサッカーの魅力を伝えていけるのは大切なことなので。もちろん、女子男子の差はあるけど、そこを埋めていくのは結局は自分たちの実力。そういう面もあっていいんじゃないかという部分もあるし、もうちょっとサッカーだけを特価するのも大事なんかじゃないか。なので、気持ちは半々ですね」
女子サッカー界の顔として自覚を深め、その思考を存分に語ってくれた23歳。座右の銘を聞くと、「コレというのはないけど、『楽しむこと』かな」と言ったこともまた、印象的だった。
「私は『楽しい』だけでサッカーをやってきたので、今も楽しむことが一番大事。大会で結果を出すから楽しいというより、サッカーをプレーすること自体が楽しい。それは練習でも試合でも大会でも変わらない。サッカーがある生活だと毎日が充実しているし、新しいことが起きて何かを修正したり、今はチームに年下が多いので一緒に話し合って取り組んだりも、すごく楽しいです」
「サッカーを楽しめ」「スポーツを楽しめ」とは、どこの指導現場でも当たり前のように言われる話。しかし、サッカーを自らの人生を充実させる手段とし、真の意味で「楽しむ」を日々実践しながら、競技力を高めようとする思考は、スポーツそのものの価値が問われている今、とても意義のあるものに思える。インタビュー中、こんなことも言っていた。
「他の人の考えがあまり分からないので、なんとも言えないけど……世の中、みんなこんな考えだったらいいのにって思います」
また申し訳なさそうに笑った。ただ、その言葉は、半分冗談で半分本気に聞こえた。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)