【今、伝えたいこと】防具を付けて逃げた9年前 アイスホッケー田中豪が3.11で知った「競技の価値」
最も伝えたいこと「一瞬一瞬、目の前のことに無駄なことはない」
様々な大会が中止、延期となるなどコロナの影響を受けているスポーツ界。アスリートが通常通りの日常が送れない今に、田中は9年前との類似点を見出すとともに「もろさもこの状況で浮き彫りになった」と感じている。
「競技を毎年やれるのは当たり前じゃない。いろんな存在、チームメートもそうですし、指導者、ファンの皆さん、スポンサーさん、リーグを運営されている方……いろんな人の支えがあってスポーツが成り立つというのを再認識させられましたし、世界中の人が大変な思いをしている中で、当たり前にシーズンができるというのはない。本当に周りに支えらえれているというのはすごく感じています」
東北復興にアスリートとして尽力してきた田中が最も伝えたいことは「一瞬一瞬を大切にしてほしい」ということだ。今までの日常が当たり前ではなかったと感じられる昨今、些細なことでも全力で取り組んでほしいと願う。
「一瞬一瞬、目の前のことに無駄なことはないと思う。『あの時こうすればよかった』とか後悔はあると思うんですけど、次やればいいやとか、今度頑張ればいいやとなると、こういう状況になったときに後悔することになると思う。一瞬一瞬を大切にして、目の前のことに全力で楽しんで取り組むということをやってほしいなと思います」
被災地の悲しみも、今回のコロナがもたらした被害も「ゼロになることはない」と感じている。それでも、前に進まなければならない。スポーツが持つ力を知る者として、最後にこう語ってくれた。
「スポーツの持つ力は計り知れないものがあると思います。感動してもらったり、喜んでもらったり、勇気を与えられるという力。そういうものを伝えるために自分たちはやっているんだなと、震災後に感じました。
大変な時期ですけど、家にいる中で今まではゆっくり考えられなかったことを考えてみることもできますし、行動を起こすことで『苦しい時期があったけれど、いろんなことを考えて成長できたな』とか、そう思えれば前向きになれるんじゃないかなと思います。一瞬一瞬を大事にして、楽しむことを忘れないでいたいです」
■田中 豪(たなか・ごう)
1983年10月6日生まれ。北海道札幌市出身。6歳からアイスホッケーを始め、中学校卒業まで雪印ジュニアに所属。北海高、早大を経て、アジアリーグのSEIBUプリンスラビッツに入団。2007年のアジア競技・長春大会では日本代表の一員として金メダルを獲得。2009年のラビッツ解散を機に、ドイツ2部のESVカフボイレンに移籍。2010年にアジアリーグ・東北フリーブレイズに入団した。2012年からは日本代表ナショナルチームの主将を務めた。ポジションはFW。
(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)