【今、伝えたいこと】防具を付けて逃げた9年前 アイスホッケー田中豪が3.11で知った「競技の価値」
忘れられない福島での試合「涙を流されている方も…」
捲土重来を期した翌シーズン、東北フリーブレイズはレギュラーリーグ2位で終えると、プレーオフも勝ち抜き、初の単独優勝を果たした。最後の試合が行われた本拠地・テクノルアイスパーク八戸では、満員の観客に祝福を受けた。
「涙が出るくらいうれしかったです……背負っていたものが全部降りたというか。うれしいというのもありましたが、会場も満員の中でそういう試合ができ、結果を届けることができたというところで、すごくホッとしたという気持ちでした」
続く2013-2014シーズン。「震災は、チームとは切っても切り離せないものになっていた」と話す田中は忘れられない光景を目にする。11月16日、被災してアイスリンクが使用できなくなっていた福島で、2年ぶりに試合が開催された。チームが戻ってくることを待ちわびていたファンが客席を埋め尽くしていた。
「やっと試合ができるということで楽しみもあり、あの時(2年前のプレーオフ)試合ができなかったからいい試合を見せたいという思いで戻ったのですが、ファンの皆さんが『戻ってきてくれてありがとう』『また試合をしてくれてありがとう』『ずっと待ってました』と……。
涙を流されている方もいて、また試合ができるようになってよかったと思いましたし、それだけアイスホッケー、自分たちを待っていてくれた。被災されている方もいる中で、そういう風に思ってくださる方がいるということに、改めて自分たちの存在の意義、スポーツ選手としてやらなければならないことの大切さをわからせてもらったと思う」
震災から9年。現在は新型コロナウイルスの影響で、7月1日の練習開始、9月のシーズン開幕など不透明で、契約面にも不安を抱える選手は多いという。開幕後、多くの観客に試合会場を訪れてもらうため、田中は他の選手とZoomや電話で度々話をしている。
「アイスホッケーは日本ではマイナースポーツ。正直に言うとお客さんに本当に来てもらえるのかとか、そういう不安もあります。ほかのアスリートの方もSNSなどで情報を発信しています。アイスホッケー選手としても、競技の普及発展のため、裏の部分を魅せられるチャンスだと思います。
競技の認知度を上げたり、子どもたちに練習方法などを伝えたり。試合は見れない時期ですがファンの方に楽しんでいただける企画をやるとか、そういったことはやっていかなければならないかなと思います。プレーだけじゃなくて、違う部分でアイスホッケーの価値を伝えられるようにしたいです」