【今、伝えたいこと】「夢がない」女子高生はゴルフで変われた 笹原優美が表現する「社会貢献」のカタチ
「戦う場所」を求め、中国に挑戦した昨シーズンに感じた“誇り”
実は、笹原にとって「戦う場所」を失いかけたのは、初めてではない。忘れられない記憶が1年半前にある。
19年シーズンから日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の規約変更により、日本ツアーの出場権を得るにはプロテスト合格が条件になった。従来なら「単年登録者」として参戦可能だったが、より狭き門に。笹原は18年末に受けたプロテストで合格を逃した。日本で練習に専念し、1年後に再挑戦するという道もあったが、ツアー出場を選択。果敢に海外に飛び出した。行き先は、中国。
突き動かしたのは、プロゴルファーとして使命感だった。
「日本ツアーに出ていた時から応援してくださる方がたくさんいて、その方たちにプレーを見ていただいたり、試合で戦っていたりする姿を見てもらえないことはプロゴルファーとして一番良くない状況と思いました。日本ツアーに出られないなら、どこか活躍できる場所を作らないと……それが、海外であったとしても構わない。なので、中国ツアーに出場することを決めました」
もちろん「出場する」といっても簡単なことではない。日本のステップアップツアーよりも賞金は安く、移動も過酷。遠征費はできる限り安く抑えるため、移動は早朝便が多く、乗継便が当たり前だった。現地入りまでに丸一日を要することもある。香港出身の母が通訳、父がキャディーを務めて中国全土を転戦。笹原家が一丸となり、激動の2019年を戦い抜いた。
ゴルフ文化の違いも味わった。一番はギャラリーのマナー。「日本ツアーはギャラリーさんのマナーの浸透がしているけど、中国はゼロに等しいくらい」と苦笑いで振り返ったように、日曜の最終日は親子連れが公園に行くような感覚で訪れ、小さい子供が走り回る。携帯のシャッター音、着信音もざらだ。「たくさんあって驚いたけど、もう慣れました」と笑う。
しかし、現状を悲観するだけでは成長しないと知っている。
「マナーの面でもそうだけど、物事を柔軟に考えられるようになったかなと思います。中国のホテルは基本的に冷蔵庫がなく、試合中のドリンクを作るのもひと苦労。中国の生活でいろいろ文化の違いがあって驚くことはあるけど、その環境に馴染んでいかなきゃいけない。そういう柔軟性、対応力が1年間かけて養われたので、その部分はプレーにもつながってきていると思います」
食事は外食中心。「当たり」の店を見つければ、同じ店ばかりに通った。会場には、日本から持参した温めるごはんとふりかけで自分でおにぎりを作り、ラウンドの合間に食べた。異国の地で間違いなく、逞しくなった。
中国ツアーのレベルについて「優勝争いする選手、賞金ランクトップ10のレベルで日本ツアーをレギュラーで戦っている選手と同じくらい」という。下位の選手との差は激しいが、海外のツアーだからこその刺激はある。
「中国ツアーの選手のうち、半分くらいは中国以外の海外選手。アジアだけじゃなく、オーストラリア、ニュージーランド、米国から来ている選手もいる。世界中のいろんなゴルファーが私と同じように自分の国を離れ、“戦う場所”を求めて中国に来ている。そういう姿は見て、ゴルファーとしてかっこいいなと思ったし、そういう中で戦えるのは私としても少し、誇りに思えます」
「日本よりレベルが劣る」と厳しい見方をする人がいることは理解している。それでも、自分で選んだ道。失ったものを数えるのではなく、挑戦して手にしたものを見つけていけば、自然と大きくなった自分がいることに気づけた。だから、伝えたい。
「中国に行くまで、考えたこともなかった海外ツアーに出ることで、感覚も全然変わった。日本じゃないとプロゴルファーとしてダメと考えるファンの方もいらっしゃいます。でも、そういう方にも海外で戦う選手の魅力や価値を広めて行きたいんです」