【今、伝えたいこと】球児に勧める“不安との向き合い方” 打撃職人・和田一浩が野球人生から学んだこと
新型コロナウイルス感染拡大により、スポーツ界はいまだかつてない困難に直面している。試合、大会などのイベントが軒並み延期、中止に。ファンは“ライブスポーツ”を楽しむことができず、アスリートは自らを最も表現できる場所を失った。
連載「Voice――今、伝えたいこと」第15回、コロナ禍の球児へ打撃職人からの金言
新型コロナウイルス感染拡大により、スポーツ界はいまだかつてない困難に直面している。試合、大会などのイベントが軒並み延期、中止に。ファンは“ライブスポーツ”を楽しむことができず、アスリートは自らを最も表現できる場所を失った。
日本全体が苦境に立たされる今、スポーツ界に生きる者は何を思い、現実とどう向き合っているのか。「THE ANSWER」は新連載「Voice――今、伝えたいこと」を始動。各競技の現役選手、OB、指導者らが競技を代表し、それぞれの立場から今、世の中に伝えたい“声”を届ける。
第15回はプロ野球の西武、中日で19年に渡って活躍した和田一浩氏が登場。高校野球では春夏の甲子園が中止になり、球児たちは大きな目標を失った。43歳で引退するまでにプロ通算2050安打を積み重ねた打撃職人は、選手生活で数多の困難と対峙してきた経験から、コロナ禍を過ごす子どもたちにメッセージを送った。
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誰も経験したことがない状況と、野球界も戦っている。プロ野球の開幕が予定されていた3月20日から2か月が経過。まだ、球場に歓声は響かない。高校野球では無観客開催が検討されたセンバツに続き、今月20日には夏の甲子園も戦後初の中止が決まった。
長年過ごしてきた野球界の流れとは大きく異なる1年。野球解説者として活動する和田氏も、新型コロナがもたらす困難を感じている。今月7日、Zoomでの取材に対してこう語ってくれた。
「一番は、選手がすごく辛い状況だと思います。僕たちは、あくまでも伝える側の立場でコンディションに影響はないけれど、プロや大学、高校でやっているプレーヤーは影響を受けている。
(練習の)強度もなかなか上げられない、目標も立てづらい。一生懸命やりすぎても煮詰まる。体調をしっかり整えてやるのが大事じゃないかと思うけれど、ただ経験したことがある選手が誰もいないし、的確なことかどうかがわからないですよね……」
世界中が危機にさらされ、日本では緊急事態宣言が発令された。マスクなどの買い占め、逼迫した医療現場……さまざまな社会問題が伝えられる中、全ての人々の生活に絶対的に必要であるとは言えないスポーツ興行の優先度は、高くはないかもしれない。だが、プロ野球の開幕がもたらす一定の意味はあるとも思っている。
「プロ野球が開幕するということは、それだけ日常に近づいたという意味合いはあると思います。世間の皆様には『野球がいよいよ始まったのか、だんだん良くなってきたな』とは感じてもらえると思うし、開幕を待ちに待っているファンの方もいる。その楽しみに選手が期待に応えるプレーをするのがいい流れだと思います」
プロ通算打率.303、319本塁打を誇り、首位打者、シーズンMVPなど数々のタイトルも獲得。42歳11か月で史上最年長となる通算2000本安打を達成した和田氏は、スポーツを「非日常のこと」と表現する。試合で自分が放ったホームランに対して「すごく勇気づけられました!」などと多くの反響をもらえた。現役引退後、改めてスポーツの力を実感しているという。
「自分のプレーで喜んでもらえたというのはうれしかったし、励みにもなった。普段では得られないような喜びや感動を得られる、そういった力がスポーツにはあると思います」