【今、伝えたいこと】「日本だったら乗り越えられる」 JOC理事・小谷実可子が信じる21年東京五輪の価値
辛い時に思い出す米王者からの言葉「全ての出来事には理由がある」
もちろん、ソウル五輪でメダルを獲得した“先輩”として、東京2020に照準を合わせていたアスリート達が感じたであろう衝撃は痛いほど分かる。「アーティスティックスイミングの選手も1日の練習が終わるたびに『1日終わったからあと何日でオリンピックにたどり着けるぞ』と、日々生きるか死ぬかの練習をしてきているので、プラス365日分の練習が加わるのは本当に精神的には苦しいこと」と共感するが、力強い言葉で背中を押す。
「みんなが向かっているオリンピックはかつてない、そして2度とないであろう特別な大会になる。そこに選手として出られる誇りを力に変えられるように頑張って」
小谷氏には現役時代から、ずっと大切にしている言葉がある。「Things happen for a reason(全ての出来事には理由がある)」――。ある大会の後で、当時の米国チャンピオンからもらったメッセージだ。
「高校でアメリカに留学をしました。アメリカでかなり成績を上げて、高い評価もいただいていたので、当時アメリカよりレベルが低かった日本ではすぐに勝てるだろうって自信を持って帰ってきたんです。でも、そこからの10代はずっと日本で勝てない日々が続きました。自分には才能があるだろうって思っていた自信や誇りみたいなものを全部失って、どん底まで落ちた。でも、自分をもう一度見つめ直して基本からしっかりやってみたら、(1987年日本選手権で)優勝できたんです。その時に思い出したのが、アメリカのチャンピオンからもらったメッセージ『Things happen for a reason』でした。
苦労しないで最初から日本では勝って当たり前、と思っていた自分がいたんですけど、上手くいかなくて挫折したり苦しんだり、努力することを身につけて、頑張ってみたら優勝できた。その時、こういう頑張ること、諦めないこと、謙虚になることを学ばせるために、私は遠回りさせられたんだと思ったんです。それ以来、どんな苦しいことがあっても、これは自分を成長させてくれる神様からの試練なんだ、と思うようになり、オリンピックまで乗り越えることができました」
このコロナ禍が「与えられた試練だとは捉えていません」。だが、少し視点を変えて「選手にとってはもっと成長できる、あと1年強化できる期間をもらったと思うこともできる。選手によって置かれている状況は様々ですが、プラスに切り替えることで乗り越えていってほしいと思います」とエールを送る。