【今、伝えたいこと】情熱、結束、品位、規律、尊重 大西将太郎「ラグビー憲章の5つの言葉が現代に必要」
今、ラグビー選手に必要なのは「Resilience」
1試合の最多観客動員を記録するなど、歴史的な盛り上がりを見せたトップリーグはシーズン途中の3月をもって中止となった。
大西氏はラグビー人気がまだ下火だった07年のW杯フランス大会に出場。第3戦カナダ戦の終了間際に同点ゴールを決めて引き分けに持ち込み、当時の日本代表の大会連敗記録を「13」で止めるなど活躍。しかし、1分け3敗の1次リーグ敗退で終えて、日本に帰ると空港で出迎えた記者は、2人だけだった。「当時はNHKが深夜で放送するくらいの大会でしたからね」と、笑って振り返る。
ラグビー不遇の時代を知り、競技を支え続けてきた立場だからこそ、昨秋に日本で行われたW杯を経て、トップリーグに生まれた“熱”は格別だった。従来の会場には見られなかった若い世代、女性に子供も増えた。その変化は、はっきりと感じ取っていた。
「W杯の成功もあって、ラグビーは昨年、一番盛り上がったスポーツだったと思う。しかし、大きく跳ね上がった分、人々がスポーツどころではない状況になり、降下率も大きかったと思う」と影響の大きさを感じ、さらに「このまま終盤まで優勝争い、日本選手権と、よりハイレベルな試合をW杯でラグビーに興味を持ってくれた子供たちに見せてあげたかった」と無念さを滲ませた。
しかし、中止になった事実は変わらない。影響を受けたのは、どのスポーツも一緒だ。だから、努めて前向きに状況を捉える。
「もし、去年の今頃がこの状態だったらW杯どころではなかった可能性もある。その中で実際に開催できて、成功もできた。世界各国の人たちが訪れ、日本という国の素晴らしさ、みんなで一つになることの良さが伝わったわけなので。ラグビー界はそういう経験をさせてもらった。開催させてもらった思いを大事にして、またあんな機会が来るようにという力にする。そう思うしかない」
この状況を最も無念に思っているのは、ほかならぬ選手たち。「もし、自分が現役だったらと考えると、コンディション、モチベーションを保つのはすごく難しい状況」と慮った上で「Resilience(レジリエンス=回復力、弾性)」をキーワードに挙げた。
「困難な状況に置かれてもその分、反発力高く、マインドセット(物事の捉え方)をプラスに変えることがアスリートはもちろん、人間として成長につながっていく。『ああいう時代もあったな』と思える時代が来るように、今できることに集中し、準備する時間にしてほしい。先が見えない中で難しいけど、それはラグビー選手だけじゃない。何より難しいのは五輪を目指す選手たち。
ラグビーはW杯を経験させてもらい、プレーできる感謝が身に染みている選手ばかり。だから、自分にできることに集中し、あとはプレーをするだけ。もちろん、選手はプレーすることで価値が生まれるけど、状況を考えるとSNSで発信したり、ファンの気持ちを遠ざけなかったりするのも選手の役割。新しい仕事が増えるけど、そういうアプローチをそれぞれ考えないといけないと思う」
実際、多くのアスリートが家でできる練習動画などを更新し、ラグビー界も昨年のW杯に出場した日本代表選手らがSNSで活発に発信。日本で大きなムーブメントを起こせたことに感謝しながら「今、できること」に集中すべきと、後輩たちに願いを込めた。
ラグビー選手ばかりではない。一人のアスリートとしての役割も考えている。