【今、伝えたいこと】 “諦める心”が大事 シンクロ三井梨紗子が説く真意「変わらないからやるしかない」
コーチの目から離れた今、求められるのは選手個々の自覚
三井さん自身、現役時代に培われたものがある。それは“諦める心”だという。ネガティブにも聞こえる言葉だが、その真意はどこにあるのか。
「私も現役時代には厳しい練習をたくさん経験してきました。つらい、やりたくないと思ったところで、大きな目標がある以上、その現状から逃げることはできません。そこで身についたのが“諦める心”です。練習が嫌だと思っても、しょうがないですよね。強くなるためには必要なわけですから。
練習の過酷さだけを見れば、嫌だなと思う気持ちはどうしても出てきます。でもそこに目を向けるのではなく、どうしたら、最小限の負担でこの状況を切り抜けられるのかを考えていました。自分の体の状態やプールの形・水温、指導者の意図など、いろんな角度から戦略を立てるのです。そうすると、そこに意識があるのでいつもより、練習に立ち向かう勇気が出てきます。そんな風に考えられるようになりました」
状況を受け入れて、それに対しての最善のアプローチを考える。今の状況に重ねることができる。今までやってきた練習ができないのなら、諦めてそれを受け入れないと前には進めない。
厳しくも愛情あふれる指導で知られる井村雅代ヘッドコーチのもとで、研鑽を積んできた三井さん。現役の選手たちがその指導から離れざるを得ない現状で、求められるのは個々の自覚だと強調する。
「今はコーチが直接は見られない状況です。ある意味で開放されてしまった中で、練習に取り組む姿勢が試されています。もしかすると、自分の心に油断のようなものが生まれてしまうかもしれない。誰も見ていないからとトレーニングの強度を落としたり、節制できなかったりするかもしれない。そうするとすぐに体型は変わります。体は正直なので、コーチはそういうところは見ているし、すぐばれます。
私は現役の頃は食べ続けないと痩せていくタイプ。毎日、朝と昼と夜、1日3度体重を量っていました。練習の前には体重のチェックがあります。私の場合は57キロと決められていて、57キロ台ならOK。56キロ台だったら、たとえ100グラム足りなくても……。厳しく指摘されていました。そして、その後の練習にも影響があります。だからそれが守れないと、周りにも迷惑をかけてしまう。そういう意味での仲間意識はありました。
当時はきつかったですけど、やるしかありません。そういう意味では今は、自分が試されている時だと思います。見られていない中で、高い意識をもってやれるのか、それとも甘えが出てしまうのか。本当にきつくなってきた時に試されるところです」
自身はこの4月に日大時代の同級生と結婚。現役時代には「一切していなかった」という料理にも挑戦。大学院生として自宅と課題に向き合う傍らで、ストレッチポールや、チューブを使った“おうちトレーニング”の動画もSNSやYouTubeで発信している。
「今しかできないこともたくさんあります」と充実した表情を見せる26歳の姿は、きっと2021年を目指す後輩たちの光となるはずだ。
■三井 梨紗子(みつい・りさこ)
1993年9月23日生まれ、東京都出身。3歳からシンクロを始める。日大一中から日大一高へ進学。2012年のロンドン五輪にメンバー中最年少の18歳で出場。5位入賞。15年の世界水泳選手権では、乾友紀子とのデュエット・テクニカルルーティンと、チームのフリールーティンで銅メダルを獲得。16年リオ五輪でもデュエットとチームで銅メダルを獲得。同年に現役を引退。
(THE ANSWER編集部・角野 敬介 / Keisuke Sumino)