【今、伝えたいこと】「最後の夏がなくなった中高生へ」 14歳の金メダリスト・岩崎恭子のエール
中高生に贈る言葉「やってきたことを否定しないで。絶対無駄じゃない」
100メートル予選落ち、200メートル10位。
数字だけ見れば、4年前より見劣りしているのは事実。しかし、結果より大切なものがあった。「私にとって14歳までの水泳と14歳からの水泳は全く別物」。その上で「苦しい思いをしたから、得られたものがアトランタだと思っている」と思いを込めた。
「14歳までは本当に無邪気で、好きなものがあり、目の前のことを一生懸命できるのは最高のこと。でも、それは14歳くらいだから良かったんです。18歳になり、物事を考えてやらないといけない年齢になると、もう無邪気になんてできなくなってくる。五輪のメダリストとしての心の成長が、私はまだちょっと追いついていなくて、その分、葛藤したこともあった。でも結局、私は心底、水泳が嫌いにはなれなかったんです。
だから、どんな状況でも続けることに意味があると思っていた。すると、心に余裕がなかった時に聞こえなかった声も耳に入ってくるようになった。周りから『乗り越えられない試練はない』と言われ、当たり前のことかもしれないけど、人の気持ちも理解できるようになった。そんな風に変われたのは、すべてバルセロナがあったから。過程の大切さを学び、それが私にしかできない経験だったと思うようになれたんです」
無邪気なまま、14歳のバルセロナで頂点に立ち、苦しみ、大人になった18歳のアトランタで完全燃焼し、引退したのは20歳の時。まだ4年後を狙える年齢ではあったが、酸いも甘いも味わった競技人生に後悔はなかった。
そして、41歳になった今、自身の競技人生から学んだことについて「“回復力”だったかな。つらい思いも、うれしい思いもするし、その中で体の回復も、心の回復もスポーツをしていたから学べた」と言い、振り返る。
「競技をしていた時も、競技を終えた時も、どんなに楽しく生きられない日々だって、すべて意味のあるものと思って生きようとしていた。それは今、この年になって生活しながらも思っている。この状況で最後の大会を迎えられず、競技をやめなければいけない中高生もいる。だけど、やってきたことが決して無駄ではないという思いを持ってもらえたらいいなと、心から思うんです」
14歳で五輪金メダルを獲った元トップ選手と、“最後の夏”が絶たれてしまった中高生たち。隔てる壁は厚いように思えるが、10代という多感な時期に傷つきながら、前を向こうとしてきた過程は同じだ。
だからこそ、岩崎さんはインタビューの最中、競技人生を振り返ってもらう中で、自身の体験を話しているうちに「今の子どもたちにも……」と繰り返して口にし、寄り添うように何度もエールを送った。
「大人の私が『分かってあげられない』と言ってしまえば、それまでなんですけど……。無理をしないで、吐き出せるものは吐き出してほしい。もちろん、吐き出せる子はいるけど、そうじゃない子もいる。だからこそ、周りの大人、指導者も声をかけて、一緒に乗り越えていくことが必要だと思います」
そして、続ける。
「私は努力をしてきたから、その分、素晴らしい経験ができたと、自信を持って言える。今、まずは自分がやってきたことを振り返って、自信を持ってほしい。やってきたことは事実だし、絶対無駄じゃない。やってきたことを否定しないで。今を乗り越えるしかないと思ってもらえたらなと思うんです」
自分を否定してしまうことは簡単だ。でも、自分と向き合うことで気づくことがある。苦しい時も練習に手を抜かなかったこと。仲間が苦しい時は手を差し伸べてあげたこと。そう過ごす中で「チームメート」が「一生の友達」になっていたこと。大切なことは、大会の結果だけじゃない。一つ一つの小さな気づきを集めれば、2年前よりずっと自分が大きくなっていた証しになるはずだ。
二度とない「今」に何を思い、どう生きるか。壮絶な10代を乗り越えた岩崎さんは「すべてに無駄なことなんてない」と言う。
未来を変えるのは、キミたち自身だ。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)