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【今、伝えたいこと】部員の事故で夢を絶たれた高3の夏 ケイリン脇本雄太「あの時、諦めなくて良かった」

脇本は“競輪”と“ケイリン”、2つの頂点を目指す【写真:Getty Images】
脇本は“競輪”と“ケイリン”、2つの頂点を目指す【写真:Getty Images】

競輪とケイリン―「両方で頂点に立ちたい」

「1番は人数が違います。日本の競輪は9人で走りますが、競技は6人でレースをします。ケイリンの場合は1レースに参加する選手は各国1人ずつ、多くても2人。自分1人でどう戦うかですが、日本の競輪の場合はどちらかと言えばチーム戦寄りになっていますね」

 競輪にはラインと呼ばれる、選手同士の連携がある。実際のレースでは時速70キロ以上の速度で走るため、空気抵抗も大きい。そこで選手たちは隊列を組むことでレースを有利に進められるように工夫しているのだ。同地区の選手同士がラインを組むことが多く、レースは個人戦であると同時にライン同士の争いという側面もある。

 一方でケイリンにラインはなく完全な個人戦。各選手が互いの出方を見ながらレースを展開し、最後は力と力のぶつかり合いとなる。さらに使用する自転車にも違いがあり、五輪を目指してナショナルチームの一員として練習している脇本にとっては違った制約もあるのだという。

「僕は競技をメインにやっているので、普段は競輪用の自転車に乗ることができません。ナショナルチームのコーチから制限されています。久しぶりに乗る(競輪の)自転車はやっぱりなれるまでに時間がかかります。両方やるには気持ちの切り替えが大きなポイントです。最初は戸惑いがありましたが、今はその切り替えが早くなっているのかなと。

 両方で頂点に立ちたい。リオの前からずっとそういう覚悟でやってきました。本当の意味で両立できてきたのはここ最近です。競輪の成績が良くなってきたのもここ1、2年です。僕自身、大きな目標として掲げているのが世界一。そこに向けてひたすら頑張っていけば、競輪で日本一にもなれるんじゃないかと思っています」

 実際に2つの道を極めようとしている。前述したケイリンでの国際大会での実績以外に、競輪でも昨年、日本一を決める日本選手権を制した。

 31歳。選手としてピーク、脂の乗った状態で迎えられる東京五輪ではメダルの期待も大きかった。だが、新型コロナの影響で本番の1年延期が決定。脇本自身、大きな衝撃を受けたと率直な胸の内を明かす。

「延期が決まった瞬間、ショックを受けて競技をこのまま続けようか、やめようか、考えましたね。なんとかポジティブに考えようと思っても、なかなか考えがまとまらない」

 大きな目標が延期に。心身を整えなおす作業は常人には想像できない領域ではある。そんな時に救われたのは、ナショナルチームのブノワ・ベトゥコーチからの言葉だった。

「2週間は悩んで、最後はコーチに相談しました。そうしたら『お前にはまだ1年間強くなれる猶予があるじゃないか。さらに強くなれるんだからメダルは間違いないよ』と言ってもらって……。その言葉がなければ? 競技はやめていたかもしれません」

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