【今、伝えたいこと】 「国難とスポーツの力」 震災を乗り越え、W杯で世界一になった佐々木則夫の願い
今、持つべき“第三者への思い”「スポーツが持つ力は、無限のものがある」
冒頭で「今回と経緯が違うことは承知している」と語った通り、佐々木は「困難を乗り越えた」「逆境で心を一つに」などという言葉ひとつで、当時の体験を今に結び付けようとしているわけではない。
ただ、スポーツが持つ力を身をもって知っているから、伝えたいことがあるのだ。
「9年前のあの時も、日本全体が元気を持てるような状況ではなかった。そこからスポーツが元気を送ることが日本代表としての使命と感じ、なでしこジャパンが選手、チームで一丸となり、第三者への思いをスポーツから作っていこうと。自分たち自身でモチベーションをしっかりと生み出し、競技に向けてアプローチができた。
今、こんな大変な世の中で練習をしたくてもできない。大会に出たくても開催されない。それは確かに悲しいことだけど、改めて、そのスポーツを順風満帆にできていたことに感謝し、さらに高みを見てほしい。ここを辛抱し、次にできる時にその思いを表現してほしい。だから、今はパワーを蓄積する時間にしてくれればいい。
やがて事態が落ち着けば、来年の五輪にかけてスポーツの力が問われる時期がきっと来る。だからこそ、いろんなスポーツからパワーを送れるようになること。それが重要だと思う。大変な時にスポーツの成果、パフォーマンスに助けられた人はこれまでの歴史において数々あるから。それを信じて、いい心構えをしてほしい」
混沌とした2020年における「第三者」とはすなわち、感染症の蔓延という先の見えない世界にいる国民一人ひとり。だからこそ、アスリートは「誰かのために」の思いを育て、その時に備えてほしいと訴える。
現在は日本サッカー協会理事を務め、女子プロリーグの設立準備室長の重責を担う61歳。サッカー界にエールも送った。
1年後に延期された東京五輪について「今回は男子も女子もメダルに手が届く、それだけの素材はしっかり揃っている。そして、日本で開催すること五輪も一生に一度あるかどうか。このチャンスをものにしてほしいし、世の中がこういう状況にあるけど、日本の皆さんにサッカーからパワーを送ってほしい。本当に期待している」と話し、2021年の夏に思いを馳せた。
今、スポーツは居場所を失いつつある。しかし、その存在が求められる時は必ず来るだろう。佐々木は言う。
「スポーツが持つ力は、無限のものがある」と。
可能性を信じ、今を耐える。それが、震災を乗り越え、「奇跡」を体験した1人のスポーツ人としての願いだ。
(文中敬称略)
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)