世界大会で5度優勝 スケートボード界の第一人者・瀬尻稜が東京五輪を目指さない理由
海外大会で気付いた「勝つだけじゃなくて、自分が楽しむために大会に出るんだって」
「頭を使いますね。最初はパークでできる技をストリートでやることしか頭になかったんですけど、やっぱり重ねていくうちに、このスポットだからこそできる技があるなとか、発想が少しずつ増えていく。そうやってスケボーの技に対する自分の考え方が変わるのも面白いんですよ」
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日本にいても海外にいても、通りかかった街角で「ここだったら、こうに滑れるな」と思いを巡らすことは日常茶飯事だ。
「運転していても、ちょっと面白そうな場所を見掛けたらUターンして、車を停めて、見て考える。よさそうだったら写真を撮って、またビデオを撮りに行くってことはしょっちゅう。どこでも舞台になるので、非常に面白いですね。どこを滑るかもホントに個性が出るところで、何でもあり。すごく小さな段差を滑るのが好きな人もいるし、超デカイ階段を飛んだり、長い手すりを流すのが好きな人もいるし。自分のやりたいことを思い切りやってできあがるのがビデオパートなんですよ」
心底スケートボードが好きなのだろう。ビデオ撮影の魅力を語るだけでも、嬉々とした表情を浮かべる。となれば、新競技として採用された東京五輪出場を目指すのかと思いきや、瀬尻は自ら目指さない道を選んだ。実際、出場すればメダル候補となる日本のトップスケーターの選択に、驚いた人も多かった。
「小さい時から父ちゃんに『勝つことが一番』って教わってきたので、15、16歳くらいまで勝つために大会に出てたんですよ。でも、海外の大会に多く出るようになってから、勝つだけじゃなくて、自分が楽しむために大会に出るんだっていうのを、いろんなスケーターから感じて。自分でもそう強く思っていた時期が、ちょうど五輪競技になるって決まった時期だったんです。だから『いや、オリンピックは出ないっしょ。俺は楽しくスケボーするっしょ』って思って、目指さなかったんです(笑)」
五輪競技に採用されたのが2016年のこと。その翌年の2017年、瀬尻は新たな挑戦に乗り出した。BMXの第一人者、内野洋平に誘われ、ストリートスポーツの祭典「ARK LEAGUE」に新設されるスケートボード部門のオーガナイザーになった。それまでプレーヤー目線でしかスケートボードを見ていなかった瀬尻は当初、内野からのオファーに乗り気ではなかったという。だが、大会中に仲間のスケーターたちが笑顔で楽しむ姿を見て「やってよかった」と実感。この時の経験が五輪への思いにも、少し変化をもたらした。
「『ARK LEAGUE』もそうなんですけど、やってみて気付くことはいっぱいある。だから、当時のオリンピックに対する考え方と今の考え方は、正直ちょっと違って、たまに本気でオリンピックを目指しても良かったかなって思う時もあります。そうしたら、また違った見方ができたかもって。だから、オリンピックを目指している若い子たちを自分は応援したいし、全然否定しません。ただ、あくまでバランス。楽しむ部分が減って、大会で勝つことが全てになってしまったら、ちょっと違うんじゃないのって。世界には両立しているヤツもいるし、それは可能ではあると思うんですよ」