酒井高徳と議論「長く活躍できる選手を育てる」 日本からドイツに渡って受けた衝撃とは
主体的に行動するようになる仕組みと、フィードバックの重要性
【テーマ2:育成年代でやっていたこと・やっておくべきことは?】
選手自身が失敗から学び、意識を変えていけるよう見守る
ユース時代から大塚氏の指導を受けていた酒井選手。元々セルフコンディショニングの意識は高かったというが、最初から順風満帆だったわけではなかったともいう。
「高校時代に、腰痛持ちだったため、シーズンオフにケアするよう指導されました。しかし特に準備せずシーズンに入り、案の定、腰痛が再発。大塚さんからは『オフに何をしてたの? 自分で管理しないやつは面倒みられないよ』と突き放されてしまい、それ以来、自分の身体をしっかり考えなければと意識が変わりました」(酒井選手)
これは大塚氏にとっては想定内の出来事だった。その失敗から本人がどう学んでいくかが大事だと考え、あえて突き放したというのだ。酒井選手が立ち直っていく方法を、同世代の選手たちも学び、皆が自分で考えてアクションを起こす空気が生まれたという効果もあったという。
とはいえ、若い選手たちが常に意識高く、セルフコンディショニングを持続する難しさは指導者ならご理解いただけるだろう。持続するコツ、指導の仕方について、大塚氏は続ける。
「このピラミッドのように、いいゲームパフォーマンスを発揮するには、良い心身の状態が必要で、その元になるのが生活習慣、ライフスタイルなのです。現在のパフォーマンスと、目標とするパフォーマンスの内訳は、同じピラミッドでも大きさが違います。そのギャップを埋めるのがトレーニングで、このサイズを大きくするには時間がかかる、とよく話します」(大塚氏)
主体的なコンディション管理のサイクルをつくるために、まず導入としてピラミッドの話をする。内発的意欲を高め、自分の課題を解決するためにはどういうトレーニングをすればいいのだろう? と主体的行動ができるように促す問いかけを行う。具体的にプログラムをこなし、自分に変化を感じると、達成満足が生まれ、指導者からフィードバックを受けることで自信が芽生える。そして次はどうするか、と新しい課題に向かうようになる。このようなサイクルを繰り返し回し、自ら判断し行動するようになるというものだ。
「このサイクルは酒井選手も実践していて、ドイツ時代は週ごとに、練習の振り返りや、ゲーム内容、次週の課題などを1時間ほど話してくれていました。『今週はこんなコンディションで、結果はこうだった』『来週はこうしていく』といったふうに。パフォーマンスだけでなく、立ち居振る舞い、コメントなども含めて、毎週自分の中で整理して共有してくれていましたね」(大塚氏)
酒井選手は、この図にある「フィードバック」部分を、数値やグラフで共有されていたこと、週に1時間の大塚氏との対話を源に、主体的なコンディション管理を行っていた。少しずつ自分で成長を実感でき、結果が出れば出るほどやる気が増していくサイクルだ。