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指導者が変われば、子どもは変わる ビジャレアルに学ぶ「人」を育てる育成術

「結果ではなく、そこに至ったプロセスを聞き、認めることで自己肯定感が高まる」と話す佐伯氏【写真:Jリーグ提供】
「結果ではなく、そこに至ったプロセスを聞き、認めることで自己肯定感が高まる」と話す佐伯氏【写真:Jリーグ提供】

「正解を教える」ことから脱却した新たな指導、問いかけを重視し先入観を疑う

 自分の言動に意識的になることで、変えるべき点が見えてくる。そうなった時、具体的にどんな指導をしていけばいいだろうか。佐伯氏はまず、選手が考える癖をつけるために、余白を残すべきと話す。そのためには問いかけが重要になる。

「一方的な断定ではなく、選手が見て聞いて、感じて考えているものを尊重するための問いを工夫しています。それによってコミュニケーションが双方向になります。特に、YesかNoで答えられないオープンクエスチョンを投げかけることが大切ですね。

 問いかけると答えられない子もいます。一方的なインプットが浸透し過ぎていて、自分で考えろと言われた瞬間に混乱してしまう選手を目の当たりにしました。これまでいかに、指示や命令を出してロボットのように動かしてきたかを大いに反省しましたね。それが大きな気付きとなりました。いまは、失敗を恐れて先回りし、正解を教えるのではなく、自分で考え動けるように、失敗できる場を作ってあげることの方が大切だと思っています」

 また、その際、先入観を持たないことにも気をつけたい。気が付かないうちに、選手をラベリングし、「この子はこんな子」と決めつけ可能性を閉ざしてしまう危険がある。

「小学生のチームで、キャプテンマークを2週間に1度回していくワークショップを行ったことがあります。すると、普段はあまり意見を言わずおとなしかった選手が、キャプテンマークを身につけた2週間でまったく別人のようになったのです。私たちがその子に、勝手にラベリングしていたことに気付かされました。

 選手たちは、私たちが知らない側面を持っています。指導者が自分の先入観やバイアスに気付くことはとても重要です。役割を固定せず回してみるのも、思い込みに気付く良いきっかけになるかもしれません」

 さらに、ビジャレアルではホワイトボードを使った一斉のミーティングをやめ、1対1の時間を多く設けるようにしたそうだ。すると黙っていても深い思考をしていたり、何かしら理由があって沈黙している選手がいることが分かった。沈黙しているからといって、考えていない訳ではない。主語を「指導者」ではなく「選手」にし、選手の考えていることを知ろうとすることが大切だ。

 問いかけに加えて、フィードバックにも工夫が必要だ。ビジャレアルでの指導改革でのメンタルコーチの指導によると、叱るべきことへのネガティブなフィードバックをする場合は、指摘しようとしていることが

<1>attitude(アティチュード:姿勢、態度、取り組み方)
<2>aptitude(アプティチュード:適性、才能、スキル)
<3>being(ビーイング:存在、ありよう)

 のどれに当たるか分けて考える必要があると言われた。このうち、指導者がネガティブフィードバックをしていいのは<1>だけだ。<2>に対しては、今後の伸び代を考え、ポジティブなフィードバックを行うようにする。<3>に対して触れることは、選手に対するリスペクトを欠く行為になる。選手の尊厳を守るためにも、この区別をつけることがとても大切になる。

 ポジティブなフィードバックはどうか。改革を進める中で、佐伯氏はその重要性を実感したという。

「どうしてもダメ出しの方が先に来て、グッドプレーを後回しにしていたんです。ポジティブフィードバックに手を抜いていたことがよく分かりました。ポジティブなフィードバックは、選手たちの自己承認欲求を高めて、自発的に次のアクションを起こすための原動力にさえなります。だからうまく取り入れていくことがとても大切です。

 ただ、『ナイスプレー』『いいね』と言っているだけでは意味がありません。それでは、評論家や観戦者と何が違うのでしょうか。何を考えプレーしたかを引き出すこと。そしてそれに対し、いいねと言ってあげること。指導者が指導者であるためには、選手が行ったアクションに至るまでのプロセスを聞き、彼らの自己実現欲求、自己肯定感を充足させることが重要なのです」

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