「非カリスマ型」森保一監督の強みとは? W杯日本代表に見る強固な組織作りのヒント
森保ジャパンには多様性だけでなく同質性もあった
一般的に、チーム作りには多様性が重要と言われます。しかし、森保ジャパンを見て気づかされたのは、多様性だけではなく同質性も重要だということでした。
2014年のブラジルW杯の際、記者会見に臨んだ今野泰幸選手が「ビッグクラブに在籍する選手と一緒にプレーできるのは光栄だ」という趣旨の発言をした際、当時ACミランに所属していた本田圭佑選手が「チームメイトを憧れみたいな気持ちで見てもらっては困る」と苦言を呈したことがありました。このやり取りを見る限り、当時の代表チームには意識の差や所属リーグのレベル差があり、ある意味で同質性が担保されていなかったことが窺えます。一方で今回の代表チームには、所属リーグのレベルはもちろん、思考レベルや価値観などにおいて同質性が感じられました。もちろん、ほとんどの選手がヨーロッパのクラブでプレーしていることが要因の1つですが、同質性が担保されているからこそ、同じ視座で率直にディスカッションできたのだと思います。
おそらく、森保監督はそういう選手を選んだのだと思います。戦術的な部分(やり方)だけではなく、チームの価値観に共感し、ポジティブ思考の持ち主で、建設的な考えができるなど、「在り方」についても重視したはずです。試合に出られなければ不貞腐れたり、ネガティブ発言をしたり、チーム批判したりするような選手たちではチームワークは実現しません。また、理想的な振る舞いができるベテランの存在がチームを引き締めてくれます。それがチームの「在り方」を構築する秘訣だと思います。
メンバー選考で言えば、26人中19人がW杯初出場であったことも、1つのポイントだったように思います。ただし初出場組は攻撃陣に多く、経験のある選手は守備陣に多かった。その選考もまた、カタールでの躍進につながったと思います。
やはり前線の選手は野心を備え、臆することなく限界を打ち破ろうとする強い姿勢が必要です。陸上の為末大さんの『限界の正体』という本に、経験者ほど限界を作りやすいということが書かれています。W杯に何度も出ているベテランは、ベスト8は簡単ではないと思い込みすぎて、自ら限界を作ってしまう可能性があります。日常からヨーロッパでハイレベルなリーグを戦っている自信に加え、W杯初出場だからこそ先入観なく大胆になれる。そういう意味で攻撃陣に若手を多く起用し、守備陣は経験豊富な選手が中心となってチームを落ち着かせていく。そのバランスを考慮した選考だったのかもしれません。26人の選考こそが、森保監督にとって最大の決断だったはずです。