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「潰れるまで挙げる」トレーニングはもう古い 育成年代にも広がるメソッド「VBT」とは

主流になりつつあるVBT 取り入れる際にはこんな注意点を理解しておこう

 特に学生スポーツにおいて、VBTの導入は大きなメリットがあるだろう。換算表を見れば負荷設定ができ、指導者にとっても難しいルールは必要ない。学生アスリートが少ない時間を効率よくトレーニングに活用するには、VBTは有効だろう。

 そんなVBTについての注意点を、長谷川教授はこう語る。

長谷川「大事なのは、何のために挙上速度を測り、それによってどのような能力の向上を目指すのか、という明確な見通しを持つこと。測った速度をどう生かすのか、という視点が欠かせません。

 その上で、できるだけ高速で爆発的に行うこと。大前提はすべてのレップを最大速度で挙げること。ゆっくり挙げることに意味はありません。確かに高重量を挙げる時は速度も落ちてきますが、それは結果的に遅くなっているということ。常に最大の速度で挙げることを意識してほしいです。

 VBTのデメリットは基本的にありませんが、強いて言えば、わざと速度を落として疲労しているふりができてしまうこと。これでは効果はありません。まあ、日本の学生でそんなことをする選手はほぼいないと思いますけどね(笑)」

 そして、ウエイトトレーニングの正しい動作姿勢をしっかりと習得してから行うこと。動作をコントロールできずに速度だけを追求すると、負傷する可能性がある。

長谷川「最初から高重量にチャレンジせず、例えばスクワットやベンチプレスならシャフトだけで始めてフォームを固め、徐々に負荷を増していくことをお勧めします。

 一つ心配しているのが、指導いかんによってオーバートレーニングを引き起こすことです。もしかすると、ヴェロシティーロス・カットオフに抵抗を感じる指導者がいるかもしれません。スポーツ界には根性主義がいまだに残っています。日本人は真面目ですから、つぶれるまでやらないとダメというメンタリティが、場合によっては普及の妨げになる可能性はあります。指導者には、柔軟に知識を取り入れる頭の柔らかさが必要かもしれません」

 最後にVBTの今後について、長谷川教授はこのように語ってくれた。

長谷川「VBTは人工知能との親和性が非常に高いと思います。デバイスメーカーのクラウドにはものすごい量のビッグデータが蓄積されているわけです。それをAIが解析していくことにより、一人ひとりの選手に合ったレップ数とセット数を判断して、メニューを提示してくれるようになる。トレーニングルームに行けば今日のメニューが自動的に作られていて、あとは微調整だけ。そんな時代が間違いなく来ると思います」

 選手はトレーニングルームに入ったら、タブレットに記された自分の名前をタップ。AIが組んだパフォーマンスアップに最適なトレーニングメニューを遂行するだけ。トレーニング時間は大幅に短縮され、浮いた時間をそれ以外のスキル習得やミーティング、勉学などに振り当てることができる。そんな時代は、すぐそこまで来ている。今や当たり前のメソッドになりつつあるVBTの今後に、大いに期待したい。

(※1)ストレングス&コンディショニング 筋肉とそれを動かす神経などを含めた筋活動に関連する能力の強化を意味するストレングス(Strength)と、それを競技パフォーマンスの向上に適切に生かすためのトレーニングや準備活動などを意味するコンディショニング(Conditioning)を一連のものと捉えたときに用いられる略語。

(※2)VBT Velocity Based Trainingの略。Velocity(ヴェロシティー)とは「速度」という意味で、Velocity Based Trainingとは速度を基準にしたトレーニング法のことをいう。

(※3)レジスタンストレーニング 筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける運動のこと。専用マシン、ダンベルやゴムチューブなどの道具を使ったトレーニングのほか、スクワットや腹筋、腕立て伏せなどの自重(じじゅう)運動も含まれる。いわゆる筋力トレーニングのこと。

(※4)RM Repetition Maximum(レペティションマキシマム)の頭文字をとったもの。最大挙上重量のこと。正しいフォームで1回だけ持ち上げられる重さを表す。

(※5)ヴェロシティーロス・カットオフ Velocity Loss Cutoffとは、VBTにおいて、ウエイトの挙上速度があらかじめ決めた一定の割合まで低下したらそのセットを終了することをいう。

■長谷川 裕 / 龍谷大学経営学部経営学科 教授、エスアンドシー株式会社 代表取締役

 1956年生まれ、京都府出身。1979年筑波大学体育専門学群卒業。1981年広島大学大学院教育研究科博士課程前期修了。1988年より龍谷大学サッカー部部長・監督。1997~1998年、ペンシルバニア州立大学客員研究員兼男子サッカーチームコンディショニングコーチ。2004~2008年、名古屋グランパスエイトコンディショニングアドバイザー。2008~2011年。本田技研工業ラグビー部Honda Heatスポーツサイエンティスト。 2016~2019年、日本トレーニング指導者協会理事長。2020年~同協会名誉会長。数々の職務を歴任。

(TORCH編集部)
https://torch-sports.jp/

(前田 成彦 / Naruhiko Maeda)

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