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「潰れるまで挙げる」トレーニングはもう古い 育成年代にも広がるメソッド「VBT」とは

コーチは負荷設定で悩む必要はない

 つまり、コーチは負荷設定で悩む必要はない。

長谷川「例えばある高校野球チームでは、1.0m/sを基準に定めています。1.0m/sが出る重さをウォーミングアップで探し、事前に決めたパーセンテージ分、速度が低下したところでストップ。これを2分のレストを間に挟み、3セット行うように指導しています」

 発揮したパワー(W)については、ピーク値と平均値をモニターできる。瞬間的スピードを向上させるにはピーク速度を指標にすればいいし、全体にわたって大きな速度を発揮する動作が目的ならば、平均速度に着目すべきだろう。ウォーミングアップをきちんと行えば、最大スピードが出るのは1~2レップ目。そこから徐々に速度が低下し、5~20%低下した段階でストップする。

長谷川「トレーニングを行う際、一定の閾値を決めておき、そこに達したらセット終了します。これを『ヴェロシティーロス・カットオフ』(※5)といい、不要な身体的・心理的負担を強いることなく、より少ない仕事量で同等もしくはそれ以上の効果を得ることができます。

 挙上速度が5%低下でやめるか、10%低下でやめるか、15%低下までやるのか、20%低下までやるのかは、トレーニングの目的や時期によって変わります。

 目安として、トレーニングのボリュームを増やして筋肥大を狙うのであれば、速度が20%ぐらいの低下まで行うといいでしょう。例えば1.0m/sで設定したら、0.8m/sに設定すると、デバイスからアラートが鳴り、そのセットは終了です。また、できる限り疲労を残したくない試合期であれば、5%の低下でストップします。そこのパーセンテージのさじ加減は、コーチの考え方次第です。ただし20%以降は、ほとんど効果がない。30~40%低下してまで行う意味がないことは、数々の研究からはっきりと分かっています。

 また、ほぼすべてのデバイスで、動作のデータ取得とともに動画撮影が可能。撮った映像はすぐさまスマートフォンでチェックでき、エクササイズ動作の改善点を確認することができます。クラウド上に選手登録をしておけば、自分の名前をタッチしてウォーミングアップの速度を測り、あとはトレーニングをするだけ。データはクラウド上に残るので、指導者はそれをチェックすればいいわけです」

 VBTに用いる代表的なデバイスを長谷川教授に紹介してもらった。

左が「GymAware(ジムアウェア)」、右上が「Enode(エノード)」(旧Vmaxpro)、右下が「VITRUVE(ヴィートゥルーヴ)」。センサー内蔵ながら軽量で小型のVBTデバイスだ【写真提供:エスアンドシー株式会社】
左が「GymAware(ジムアウェア)」、右上が「Enode(エノード)」(旧Vmaxpro)、右下が「VITRUVE(ヴィートゥルーヴ)」。センサー内蔵ながら軽量で小型のVBTデバイスだ【写真提供:エスアンドシー株式会社】

長谷川「代表的なものは、オーストラリア国立スポーツ科学研究所(AIS)の研究を背景に開発されたGymAwareです。LPT(リニアポジショントランスジューサー)という仕組みで、ケーブルの先端を器具や身体に装着。スプール(巻き取り装置)の回転速度から、ケーブルの引き出される直線速度を検出します。

 他には加速度計とジャイロスコープを内蔵したIMU(慣性計測装置)を用いたドイツのEnode(エノード)、スペインのVITRUVE(ヴィートゥルーヴ)などもあります。EnodeとVITRUVEは8万円台で導入でき、比較的安価です。GymAwareは35万円から40万円と高価ですが、その分、より多くのデータを取得できます」

 また光学センサーを用いたFLEXのほか、スペイン、フィンランド、ノルウェー、アイルランドなどヨーロッパを中心にさまざまなものが出てきているようだ。

 そして現在、VBTは野球、ラグビー、アメリカンフットボールのほか、スケートや陸上競技、バレーボールなどでも導入が進んでいる。

長谷川「最近ではサッカーでも導入が進んでおり、J1のあるチームでも導入したと聞いています。VBTはほぼすべての競技で効果を発揮しています。それは学生スポーツや育成年代のチームでも同様です。

 中学校での実績はまだ耳にしていませんが、高校や大学でも導入が進んでいます。一般的にいわゆるウエイトトレーニングは高校入学後など、第二次性徴を経て骨の成長が終わったタイミングから始めるのが適切といわれますが、それはVBTでも変わりません。むしろ身体により適切な負荷をかけられるという意味では、若年層の怪我を防ぐためにもVBTの方が問題が少ないと思います。

VITRUVEを使いVBTを行う高校生野球選手【写真提供:G5SPORTS】
VITRUVEを使いVBTを行う高校生野球選手【写真提供:G5SPORTS】

 学生スポーツで最も導入が進んでいる競技は野球ですね。大学野球が一番多いですが高校野球でも進んでいます。甲子園に出場したチームもいくつもありますよ」

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