「潰れるまで挙げる」トレーニングはもう古い 育成年代にも広がるメソッド「VBT」とは
これまでのトレーニング法の課題とは
VBTの詳しいことを解説する前に、既存のトレーニングメソッドの問題点、そして「なぜ『速度』を測定することがよりよいパフォーマンスの発揮につながるのか」について説明していく。
これまでのウエイトトレーニングにおいて、負荷設定の考え方は「1RM(※4)×◯%×◯回」というもの。選手が1回持ち上げられる最大の重さ(1RM)を測定し、その重さを基準としておもりの重量とレップ数、セット数を決めていた。
ところが今、これまで長年用いられていた負荷設定には問題があることが分かっている。
長谷川「そもそも1RMとは日々変わるものです。選手にはコンディションのいい日も悪い日もあります。測定日が1週間の中間の日であれば疲れがたまっているかもしれない。試合期なのかトレーニング期なのかによっても数値は変わる。
つまり、その日の1RMが正確に分からない中、ある測定日に測った本来変動するはずの1RMを基準としていることが、最も大きな問題。バーにどれだけのおもりを付けるのか。何kgのダンベルを持つのか。その根拠がはっきりしていないのです」
本来、アスリートが獲得したいのは、単に重いものを持ち挙げる能力ではなく実際に発揮される「力」と「パワー」。パワーとは「力の大きさ×運動速度(より正確に言えば加速度)」。つまり時間あたりの仕事量(仕事率)のこと。同じ重量のバーベルやダンベルを挙げる場合でも、速度が違えば必要な筋力は異なる。
つまり、ウエイトトレーニングで発揮するパワーを向上させるには、目で見るだけ、感覚だけでは分からない、速度の変化を把握する必要があるということ。これまでの考え方では、トレーニング動作が身体に与える刺激を正確に捉えるには不十分なのだ。
長谷川「これまでのトレーニングには<1>重量<2>レップ数<3>セット数<4>レスト時間しか、基準となるデータはありませんでした。ほかには『今日はちょっと重たく感じるなあ』『今日は調子がいいなあ』という感覚だけ。
しかし現在は、テクノロジーの進展によって、バーやダンベルを挙上するスピードを測定できるデバイスが生まれました。これによって、ウエイトトレーニングで発揮できるパワーがどれぐらいなのかを、指導者やアスリートが認識できるようになったのです」
現在は「挙げている重量が1RMの〇%に当たるのか」というパーセンテージと、全力で挙上した時の速度(m/s、メートル毎秒)には相関関係があることが明らかになっている。
簡単に言えば、重さに対する挙上速度を測れば、それが1RMの何%に該当するのかが、換算表で分かるようになっているということ。挙上速度を測定すれば1RMは自動的に算出できる。毎日変動する1RMをわざわざ測定する必要はない。