「潰れるまで挙げる」トレーニングはもう古い 育成年代にも広がるメソッド「VBT」とは
昨今、ウエイトトレーニングが大きく変わりつつある。テクノロジーの発展に伴い、トレーニングで発揮されるパワーやスピードの変化など、目に見えない要素を数値化できるデバイスが登場。それに伴い、新たに「速度」を基準とした「VBT(Velocity Based Training)」というメソッドが広まっているのだ。VBTとは、どんな効果が得られるトレーニングなのか。そしてどんな競技に取り入れられているのか。必要な機器にはどのようなものがあるのか。専門家の話を交え、VBTの基本を解説する(取材・文=前田 成彦、文中敬称略)。
「速度」を基準としたメソッド「VBT」を専門家の話を交えて解説
昨今、ウエイトトレーニングが大きく変わりつつある。テクノロジーの発展に伴い、トレーニングで発揮されるパワーやスピードの変化など、目に見えない要素を数値化できるデバイスが登場。それに伴い、新たに「速度」を基準とした「VBT(Velocity Based Training)」というメソッドが広まっているのだ。VBTとは、どんな効果が得られるトレーニングなのか。そしてどんな競技に取り入れられているのか。必要な機器にはどのようなものがあるのか。専門家の話を交え、VBTの基本を解説する(取材・文=前田 成彦、文中敬称略)。
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パフォーマンスを向上させ、怪我をしにくい身体を作るために、ウエイトトレーニングは有効な手段である。ただし、限られた時間の中で最大限に効率よく目標を達成するには、成果をより正確に確認し、最適な方法でトレーニングを実践する必要がある。
「実は無駄なトレーニングが多すぎる」
龍谷大学の長谷川裕教授はそう語る。長谷川教授はスポーツサイエンスにおけるパフォーマンス分析の研究では、常に先頭を走ってきた。これまで数多くのスポーツチームで、ストレングス&コンディショニング(※1)にも携わる中、90年代から、アスリートのパフォーマンス向上のために、ウエイトトレーニングにおける挙上速度の重要性に着目すべきだと訴え続けてきた。
長谷川「VBT(※2)とは、Velocity Based Trainingの略。Velocity(ヴェロシティー)とは『速度』という意味で、Velocity Based Trainingとは『速度に基づいたトレーニング』ということです。今や挙上速度を測ることは、ウエイトトレーニングの前提となりつつあります。
この言葉は、2011年にオーストラリアの研究グループによって、ウエイトトレーニングの挙上速度の特性について公表されたデータの中で使われたのが最初だと言われています。
ただし考え方としては、それ以前から存在していました。1980年代、東欧の社会主義国がオリンピックで数多くの金メダルを取っていた頃に、バーベルの挙上速度を測っている映像をいくつか確認できます。また90年代には、ドイツのティドスという陸上競技の指導者でレジスタンストレーニング(※3)の研究者が、挙上速度を測りながらウエイトトレーニングを行う方法を提唱しています。実際にアメリカやオーストラリアでは、90年代の終わり頃からウエイトトレーニングの挙上速度を基準とする試みが始まっていました。
挙上速度を測定するデバイスの基礎を作ったのはスロバキアのドゥシャン・ハマーという人。彼が作ったフィットロダインという機器を私が1997年に日本に持ち帰り、さまざまな実験をしてその結果を国際学会で発表しました。そのことがオーストラリアのラグビー界に伝わり、当時のトヨタ自動車のラグビー部のオーストラリア人ストレングスコーチがフィットロダインを使い、今で言うVBTを行っています」
かつて多くのトレーニング指導者は「ひたすらレップ数(=回数。Repetitionを略したRepのこと)とセット数(決めた一定のレップ数を1セットとし、それを行う数)をこなし、つぶれるまでひたすら選手を追い込んでいた。
長谷川「何を隠そう、私もです。長い間『挙がらなくなってからがトレーニング』と言い続けていました。でも今、この考え方は完全に時代遅れです。重たいおもりを何回も挙げ、疲れて満足していた時代は遠い昔。実はウエイトトレーニングにおいて、フラフラになるまで追い込むことに意味はありません。余計な疲労をためてオーバートレーニングに陥り、負傷するだけです。そのことは、すでにさまざまな研究で立証されています」