弁護士に聞くスポーツのハラスメント問題 パワハラが起きる理由とセクハラへの対処法
パワハラの認定基準は「それが生徒にとって本当に必要か」
スポーツ庁が体罰・ハラスメントの根絶に向けて定めている「運動部活動での指導のガイドラインhttps://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop04/list/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/06/12/1372445_1.pdf」(平成25年5月)では、指導と称した殴る・蹴るなどの体罰はもちろんのこと、人間性や人格を否定するような発言や行為を「厳しい指導」として正当化することは許されない、として禁止されている。
体罰・パワハラはダメ、という社会通念は浸透しつつあり、相談窓口が整備され保護者の意識も変化してきた。それでもなお無くなっていないということは、ひどいニュースが後を絶たないことからも想像できる。誰の目から見ても分かりやすい体罰よりも、むしろ気付かれにくい方法・見えない場所でのハラスメント行為に置き換わってきているのではないだろうかという印象さえある。
雇用関係がある職場に目を向けると、厚生労働省は事業主がハラスメント防止のために対策することを義務化しており、法整備も年々強化されている。しかしスポーツにおいては、一律に体罰・パワハラと指導とを線引きする難しさがあるとされるのか、事案を個別に検討されることが多いようだ。「単に、懲戒行為をした教員等や、懲戒行為を受けた児童生徒、保護者の主観のみにより判断するのではなく、諸条件を客観的に考慮して判断すべきである」(「運動部活動での指導のガイドライン」より)。
指導者は、その指導方法・内容が合理的かどうか、その生徒にとって本当に必要なことだったのかどうか、という視点を持って客観的に指導内容を振り返る必要があるだろう。以下に、同ガイドラインから不適切な指導例として挙げられている「体罰等の許されない指導と考えられるものの例」を抜粋・引用しておく。
1.殴る、蹴る等。
2.社会通念、医・科学に基づいた健康管理、安全確保の点から認め難い又は限度を超えたような肉体的、精神的負荷を課す。
(例)
・長時間にわたっての無意味な正座・直立等特定の姿勢の保持や反復行為をさせる。
・熱中症の発症が予見され得る状況下で水を飲ませずに長時間ランニングをさせる。
・相手の生徒が受け身をできないように投げたり、まいったと意思表示しているにも関わらず攻撃を続ける。
・防具で守られていない身体の特定の部位を打突することを繰り返す。
3.パワーハラスメントと判断される言葉や態度による脅し、威圧・威嚇的発言や行為、嫌がらせ等を行う。
4.セクシャルハラスメントと判断される発言や行為を行う。
5.身体や容姿に係ること、人格否定的(人格等を侮辱したり否定したりするような)な発言を行う。
6.特定の生徒に対して独善的に執拗かつ過度に肉体的、精神的負荷を与える。
(「運動部活動での指導のガイドライン」より)
堀口氏によれば、以前はパワハラやセクハラが起きても、選手は辞めるか我慢するしかないケースが多かったという。選手の居住地域で特定の競技を行うためには、その指導者しか選べないという事情は少なくない。それには地域性が大きく影響している。ところが近年、問題のある指導者の責任を問い、指導から外れてもらうケースもみられるようになってきた。
「学校部活の場合、管理職の方針で、問題が発覚した後はすぐにしかるべき処置を講ずることも増えてきました。学校の意識が変わってきているのを感じています。指導者がこれでいいと思っていることでも、公の目にさらされることで変えなくてはいけないと気付く場面が増えてきました」