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沖縄球界に異変起こした謎の高校 興南・沖縄尚学の2強破って創部3年目で県王者「エナジックスポーツ」とは

野球場を使用できる日は実戦練習に多くの時間を割き、ノーサインでの連係を磨く【写真:長嶺真輝】
野球場を使用できる日は実戦練習に多くの時間を割き、ノーサインでの連係を磨く【写真:長嶺真輝】

ノーサイン野球の伝道師に教え請う 「相手の隙を探る習慣」が身に付く

 神谷氏にとって公立最後の赴任校となり、10年間率いた美里工時代はノーサイン野球の研究期間と言える。

 教えを請うたのは、明治神宮大会で東亜大を3度の日本一に導いた中野泰造氏だ。ノーサイン野球の伝道師で知られる。当時、中野氏が監督を務めていた山口県の高川学園や、中野イズムが継承される東亜大を訪ね、ノウハウを学んだ。

 ただ、難しい。選手同士の意思の疎通ができていないと連係にズレが起きる。「沖縄に持ち帰ってやるけど、簡単にはできない」。美里工で取り組んだのは「基本的にはノーサインでやるけど、監督から見て少し不安がある時はサインを出すという二刀流のやり方でした」。

 選手が常に自分たちでプレーを判断する野球を実現するためには、どれだけの時間を積む必要があり、どんな練習をやるべきなのか。日々球児たちと向き合い、考え続ける中で、少しずつ形が見えてきた。

 そして、決断の時が来た。指導者として43年目、66歳でエナジックの監督に就任。「ここでノーサイン野球をやろう」。ゼロからチームを作るため、色を出しやすいことも背中を押した。美里工時代の教え子で、東亜大でプレーした神田大輝さんを野球部長に招聘し、脇を固めた。

 エナジックは廃校となった学校を再利用しているため、グラウンドが広いとは言えない。それでも週に3日ほどはタピックスタジアム名護や金武町ベースボールスタジアムなど近隣の野球場を借りて練習を行い、その日は時間が許す限り紅白戦を繰り返す。コーチ陣のサインなしで選手同士が活発に話し合い、一瞬の判断をすり合わせていく。

 すると少しずつではあるが、お互いの特性に対する理解が深まり、アイコンタクトで連係がハマる場面が増えてきた。

 春季大会中、エースで打線の中軸も担う1期生の古波蔵虹太も「初めは戸惑いながらやっていて、2年生の秋くらいまでは全然連係ができませんでした。でも、この冬の期間でだいぶ理想に近付けたと思います」と自信を見せていた。実際、昨年の秋季大会は初戦敗退と結果が出ず。しかし、今年1月に中野氏を臨時コーチとして20日間招くなどしてノーサイン野球を磨き、春に頂点まで駆け上がった。

 就任3年目にして、神谷氏も手応えを感じているよう。

「勝手に使っている言葉ですが、瞬時の判断をするための『野球脳』が向上したということだと思います。バント、エンドラン、盗塁。何をするにしても、駆け引きの中で常に相手の隙を探る習慣が必要になる。それが、毎日の実戦練習で身に付いてきました」

 エナジックは、次から次へと多彩な攻撃を仕掛ける。それはベンチにいる一人の脳ではなく、複数人の脳でプレーを選択しているから。打席を外してベンチからのサインを確認する動作がないため、テンポも速い。指揮官は「相手とっては普段とリズムが違ってくるんじゃないですかね」と語り、強みになっていると見る。

 もちろん盗塁やバントの失敗、連係のミスが起きることもあり「不安もいっぱいある」。ただベンチから見ていて選手たちが想像を超えるプレーをすることも多く、それと同じくらい「ワクワク、ドキドキする」。高校教育を通じて生徒の自主性を育てる副学院長としての目から見ても、常に自分で考え、選択する習慣が必要なノーサイン野球は「自立につながると思う」と考える。

 6月22日、北海道と並んで日本一早く開幕した夏の甲子園出場を懸けた沖縄大会。第1シードのエナジックは2回戦から登場する。春の勢いそのままに「3年以内の甲子園出場」を実現することができるか。神谷氏が40年以上に渡って積み上げた野球哲学がぎゅっと詰め込まれた新鋭校のチャレンジが、まもなく始まる。

(長嶺 真輝 / Maki Nagamine)

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