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“狭い世界”にいたら成長できない EURO出場の日本人コーチ、欧州トップ監督から得た学びとは

サッカー日本代表は、今やメンバーの大半が欧州でプレーする時代となっている。一方で日本人指導者の海外進出には今も高い壁が立ちはだかっているが、その中で大きな足跡を残しているのがセルビア代表コーチとして2022年カタール・ワールドカップ(W杯)を経験し、6月14日にドイツで開幕するEURO(欧州選手権)の舞台にも立つ喜熨斗勝史(きのし・かつひと)氏だ。2008年から名古屋グランパスでドラガン・ストイコビッチ監督の信頼を勝ち取ると、15年から中国の広州富力に、21年からセルビア代表にコーチとして呼ばれ、指揮官の右腕となっている。

EURO2024ファイナリスト・ワークショップに日本人として唯一参加。フランス代表のデシャン監督(右)らと意見効果する機会に恵まれた【写真:本人提供】
EURO2024ファイナリスト・ワークショップに日本人として唯一参加。フランス代表のデシャン監督(右)らと意見効果する機会に恵まれた【写真:本人提供】

連載・喜熨斗勝史「欧州視点の育成論」第6回、印象深かったイングランド代表監督の言葉

 サッカー日本代表は、今やメンバーの大半が欧州でプレーする時代となっている。一方で日本人指導者の海外進出には今も高い壁が立ちはだかっているが、その中で大きな足跡を残しているのがセルビア代表コーチとして2022年カタール・ワールドカップ(W杯)を経験し、6月14日にドイツで開幕するEURO(欧州選手権)の舞台にも立つ喜熨斗勝史(きのし・かつひと)氏だ。2008年から名古屋グランパスでドラガン・ストイコビッチ監督の信頼を勝ち取ると、15年から中国の広州富力に、21年からセルビア代表にコーチとして呼ばれ、指揮官の右腕となっている。

 異色のキャリアを歩む日本人コーチが、欧州トップレベルの選手を指導する日々で得た学びや、育成をテーマに語る連載。今回はEURO開幕を前に、出場24か国の監督やコーチが集ったワークショップでの印象的な議論について。欧州トップレベルの指導者たちと親交を深めたなか、EURO本大会で対戦するライバル国の監督の話は、日本サッカー界にとって示唆に富むものだったと振り返る。(取材・構成=THE ANSWER編集部・谷沢 直也)

 ◇ ◇ ◇

 日本人コーチとして初めてEUROの舞台に立つ。その価値を今、僕は改めて噛み締めている。もちろん、2022年カタールW杯も人生においてかけがえのない経験になったし、1人の日本人がセルビアという国の代表チームの一員となり、3年以上にわたって一流の選手やコーチと勝利を追い求めてきたこと自体が、日本にいた頃には想像もできないほど幸せなことだ。

 その集大成として、6月14日にドイツで開幕する欧州最高峰の大会に臨むのだが、僕は本番を前に早くも日本人指導者として稀有な経験をすることができた。それが4月7日からの3日間、デュッセルドルフで開催されたEURO出場24か国の監督やスタッフらが一堂に会す「ファイナリスト・ワークショップ」への参加だ。

 このワークショップには各国の監督やコーチのほか、ドクターやトレーナー、広報担当者なども集まり、それぞれのセクションで大会に向けていろいろな意見をぶつけ合う。僕はコーチ代表として、テクニカルアナライズのセッションに参加し、最近のサッカーの傾向などを各国の参加者と話した。もちろん日本人は僕1人。最初は「なんでここにいるの?」という懐疑的な視線を向けられたが、同時にすごく興味も持たれて、欧州トップレベルの指導者とフランクにサッカー談議をする機会を得られた。

 フランス代表のディディエ・デシャン監督、イタリア代表のルチアーノ・スパレッティ監督、トルコ代表のヴィンチェンツォ・モンテッラ監督……。クラブや代表で様々な経験をしてきた彼らの話は興味深いものばかりで、間違いなく自分自身の指導者としてのスキルアップにつながったが、その中でも特に印象深かったのがイングランド代表のガレス・サウスゲート監督とのディスカッションだった。

 イングランドとはEUROのグループCで同組、しかも6月16日の初戦で顔を合わせる相手。本来であれば、お互いが探り合うような間柄だが、ホテルの朝食会場で意気投合してから1時間ほど、サッカーに関するいろいろな話をすることができた。

 サウスゲート監督との会話の中で特に興味深かったのが、「イングランドのコーチたちは今、すごく世界が狭い」という彼の言葉だ。プレミアリーグが隆盛を極めており、彼らの多くが国外に出ずイングランドで指導者キャリアを全うしているという。サウスゲート監督自身も2006年にミドルスブラの監督に就任してから母国のみで指導しているが、長年にわたってA代表を率いてグローバルなサッカー環境に触れ続けたことで、自国以外の指導法や価値観を知り、ポジティブなものもネガティブなものも様々なフィードバックを受けなければ、指導者としての幅が広がらないと感じているのだろう。

 この見解には僕も同意だ。世界中で愛されるサッカー自体が、他競技に比べて多様性に富んだスポーツであり、1つのプレーに対する評価や指導法にも、国境を越えればいろいろな意見が出てくる。自分が育ってきた環境のみで学んで出した答えと、多様なサッカー文化に触れて多くの引き出しを持った上で出す答えは、後者のほうが圧倒的に指導に柔軟性や幅を生み、それがコーチとしての成長を促す。

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喜熨斗 勝史

サッカーセルビア代表コーチ 
1964年10月6日生まれ。東京都出身。日本体育大学を卒業後、高校で教員を務めながら東京大学大学院総合文化研究科に入学。在学中からベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)ユースでフィジカルコーチを務めると、97年に教員を退職しトップチームのコーチとなる。その後セレッソ大阪、浦和レッズ、大宮アルディージャ、横浜FCを渡り歩き、04年からは三浦知良のパーソナルコーチを務める。08年に名古屋グランパスに加入してドラガン・ストイコビッチ監督の信頼を得ると、15年からは中国の広州富力、21年からはセルビア代表のコーチに招かれる。日本人としては初めて、欧州の代表チームのスタッフとして22年カタールW杯の舞台に立った。
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