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圧倒的多数の「敗者」がサッカー文化を支える 日本の育成年代で選手に伝えるべき3つのバランス

「リスク」「時間」「夢」のバランスが重要

 一方、欧州では「サッカーで『一生』飯が食える」歴史が100年以上も続いている。さまざまな形でサッカーに関わりながら人生を過ごす文化が根付いており、また目標設定が高いがゆえに、日本に比べてリスクを許容する範囲も広い。リスクを負って勝負し、たとえ失敗したとしても、チャレンジしたこと、チャレンジし続けることを称えて次の道へと向かわせる文化がある。

 サッカーの世界は厳しく、成功して「サッカーで『一生』飯が食える」人は、全体から見たら本当にごくわずかだ。彼らのような「勝者」を作り出すことが育成における最大のテーマではあるが、同時にその周囲に存在する圧倒的多数の「敗者」をいかにサッカーに繋ぎとめるか、「サッカーをやっていて良かった」と思いながらその後の人生を「チャレンジし続けながら」過ごせるようにできるかも、その競技の文化を発展させる上では忘れてはいけない視点だろう。

「君は将来どうなりたいんだ?」

 育成期においては、個々の選手の「志」をどこに設定するかもしっかりと考えなくてはいけない。技術や戦術をただ獲得させるだけではなく、将来目指す場所を高く設定すればするほど、人生におけるリスクも背負うことをしっかりと伝えていかなければいけない。「リスク」「時間」「夢」――この3つのバランスをどう取るかが重要だ。

 今、欧州でのサッカーの成功モデルケースは、選手として50~100億円を稼ぎ出すこと。セルビア代表には、そんな選手たちが文字通りゴロゴロしている。しかし、彼らは「サッカーをリスペクト」しているし、何よりも弱者や敗者に対する「リスペクト」も忘れてはいない。20~23歳であっても、育成期から日本人の想像を超えるリスクを負って戦い、成功を手にしてきた風格が備わっている。「いくら稼ごうと、毎試合点を取るためにベストを尽くし続けることが自分の仕事」とは、弱冠23歳のユベントスの(ドゥシャン・)ヴラホビッチの言葉だ。

 チャレンジしたこと、そして、チャレンジし続けていることを評価して称えられる文化、そして選手として大成できなくても、サッカーに一生携わり、日々楽しんでいけるような選択肢が日本にもっと増えていけば、スター選手のプレーに一喜一憂するだけではない、サッカー文化の本質を楽しめるマインドセットが浸透していくはずだ。

(THE ANSWER編集部・谷沢 直也 / Naoya Tanizawa)

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喜熨斗 勝史

サッカーセルビア代表コーチ 
1964年10月6日生まれ。東京都出身。日本体育大学を卒業後、高校で教員を務めながら東京大学大学院総合文化研究科に入学。在学中からベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)ユースでフィジカルコーチを務めると、97年に教員を退職しトップチームのコーチとなる。その後セレッソ大阪、浦和レッズ、大宮アルディージャ、横浜FCを渡り歩き、04年からは三浦知良のパーソナルコーチを務める。08年に名古屋グランパスに加入してドラガン・ストイコビッチ監督の信頼を得ると、15年からは中国の広州富力、21年からはセルビア代表のコーチに招かれる。日本人としては初めて、欧州の代表チームのスタッフとして22年カタールW杯の舞台に立った。
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