Jリーガー多数輩出、個性磨くサッカースクールの信念 子供に「正解を押しつけない」
浅野代表「malvaではチームとは違うことを吸収してほしい」
浅野にはスクール立ち上げ当初からポリシーがあり、それは20年以上経った今でも守られている。
「チームを作ってほしいという声は、たくさんいただきます。でも僕はチームではなくスクールという形態を続けています。頑なにやらない理由は、チームを作るとみんなが苦しくなってしまうからです。どうしても結果を求めなければいけない部分が出てきて、いろいろなことに気づけなくなってしまうのはもったいない。子供たちが所属するチームには、それぞれ規律や戦術があると思います。それはとても大切なことですが、だからこそmalvaでは違うことを吸収してほしい。そういった部分にこそ存在意義があると思っています」
浅野自身、幼少期になかなか評価してもらえない日々を過ごした経験がある。意識するのは目線を常に子供たちと同じ高さに置くこと。
「子供って大変ですよね。先生やコーチに『ああしなさい、こうしなさい』と言われ、親には『なんでできないの?』と求められる。本当は楽しくてボールを蹴っているのに、苦しいことのほうが多くなってしまうのは、僕は違うと思うんです」
こうした理念は、スクールでの指導方法や子供へのアプローチという形で具現化されている。彼らは大人ではなく子供で、サッカープレーヤーである前に人間だ。当たり前なのに忘れがちな部分に大きなヒントが隠されている。
「自分たちの正解を押しつけないことを大切にしています。子供の数だけ個性と正解があるので、指導者はそれぞれの可能性を見出し、引き出すように努めるという考え方です。具体的な指導方法としては、直接的な言葉かけである“コーチング”と言葉をかけない“ノーコーチング”、それとあえて対象ではない子供に対して言葉を発して周りの子供に気づかせるという手法もあります。学んで、感じて、気づいてほしい。それは大人になってからサッカー以外の場面でも人間力として生かされるはずです」
malvaの教えが間違っていないことは、現在もプロサッカー選手として第一線で活躍している卒業生たちがしっかりと示している。
水戸市出身の大津祐樹は成立高校を卒業して柏レイソルに加入した。しかし、プロになってからもスクールを訪れ、malvaでの学びをやめようとしなかったという。それだけでなく浅野との何気ない会話からシュートする際にインパクトするポイントを前に置くことを意識するようになり、それがロンドン五輪準決勝のメキシコ戦で決めた豪快なミドルシュートの伏線だった。