変わろう、野球 筒香嘉智の言葉「『球数制限』という言葉だけが一人歩きしている」
球数制限は「方法」「きっかけ」の一つ「導入がゴールではなく最初の一歩」
筒香は以前、ふとこんな言葉を漏らしたことがある。
「僕がメディアの皆さんに話をすると、だいたい見出しになるのは『球数制限』という言葉なんですよ。でも、大切なのは何のためにするかということ。『球数制限』という言葉だけ切り取られて一人歩きしている感じがするんです。球数制限は球児を故障から守る一つ方法であって、議論するきっかけの一つ。導入がゴールではなく、最初の一歩だと思うんです」
なぜ、今「球数制限」の導入が叫ばれているのか。それは投手の故障を防ぐためだ。
1試合で投げる球数が増えたり連投が続いたりすれば、投手の肩や肘には負荷がかかり、その度が過ぎれば炎症が起こる。炎症が収まらないうちに、再び登板して負荷が加われば怪我につながる。国内でトミー・ジョン手術(肘内側側副靱帯再建手術)を何度も手掛けてきた慶友整形外科(群馬県館林)の古島弘三医師によれば、個人差はあるものの1試合で150~200球投げた投手に見られる肘の炎症は4日ほどで回復、肩の炎症はさらに数日を要するという。NPBでは先発投手は1週間に一度、MLBでは5試合に一度の頻度でマウンドに上がっている。さらに、MLBでは100球が降板の目安とされており、医学的な見地から投手の健康が守られていることが分かるだろう。
NPBもMLBも半年以上にわたるペナントレースを戦うもので、短期間に行われるトーナメント制の高校野球と話は違うという意見もあるだろう。だが、WBCやプレミア12などプロが参加する短期開催の国際大会でも球数制限は設けられているし、短期間に試合が集中するトーナメント制だからこそ球児の体にかかる負担を配慮しなければならない。筒香も「大人が球数制限で守られているのに、子ども達が守られていないのはおかしいと思いました」と話している。
昨夏の甲子園では、金足農の吉田輝星(現・日本ハム)が“ひとりエース”として、甲子園で881球を投げた。その夏の秋田県大会で636球を投げており、約1か月半(11試合)で合計1517球を投げている。ちなみに、昨季MLBで最も多い球数を投げたマックス・シャーザー(ナショナルズ)は約半年(33試合)で3493球。これから全盛を迎えるべき球児の方が、肩肘に負担をかけていることは歴然だ。U-18ワールドカップなどアンダー世代の国際大会では、球数制限が設けられていることを考えれば、高校野球をはじめとする日本国内のアンダー世代カテゴリーは世界基準から遅れをとっているとも言えそうだ。