子供が安心して発言できる環境に ラグビー元代表選手と敏腕教育者が願う“学び”の場
子供たちが言いたいことを言える環境作りを…
――子供たちが自分で目標設定ができることは大事ですね。
菊谷「本当にそうですね。自分の目標設定をみんなと共有して、それを達成するためのプロセスを作るという時間を大事にするんですけど、そこで本当に自分たちで大事だと分かって行動に移せている」
小野澤「子供たちが『僕らに何を教えてくれるの?』というスタンスではなく、『僕たちが楽しむためにコーチや先生を使う』という感じですよね」
菊谷「ファシリテーターとなる指導者は答えを与え過ぎてしまうことが多いんです。なるべくそうしないようにクエスチョニングを使うわけですが、今日はそこを越して、僕らがちょっと見本を見せるだけで、その後は自分たちの想像力を使っていましたよね。ボールを服の中に隠して『手で触ってないので、これはオッケーだよね』『それはダメだよ』という話まで、子供たちだけ持っていけているので」
小野澤「『これはどうするの?』『これはなしね』とルール介入もしてくるわけですよ。みんなで楽しむための制限としてルールがあるわけで、子供たちのエネルギーを抑制するためのルールではない。競争に勝つために、みんなのベクトルを合わせる。そのために自分たちでルールを設定するところまでできていました」
山口「最高にうれしいなぁ(笑)」
小野澤「社会に出ていっても『この方が世の中がよくなる』『この方がみんなが楽しくなる』という考え方ができる素地がありますよね」
山口「楽しいってすごく大切なことで、そこが認められてうれしいですね。今、子供たちは『言うこと』『表現すること』が苦手だと言われるけど、その前に『表現してもいいんだ』という環境を作らないといけない。一人一人思うことや意見は違うんだから何を言っても大丈夫、周りが『あ、そうなんだ』と聞ける環境をすごく大切にしています。日本ではそういう環境が少なくて、何か言ったら『違う』と否定されてしまう。何を言っても『君はそうなんだね』『あなたはそうなんだね』と受け入れてもらえる環境が大事ですよね」
――LCA国際小学校では、先生方にどうやって子供と関わるように伝えていますか?
山口「先生たちにはとにかく『口よりも耳だ』と言っています。子供たちにアドバイスしたり指導したりするよりも、まず子供たちの言うことに耳を傾けて受け入れることが大事だと伝えています。子供たちは自分の言ったことを認めてもらえるから安心でき、自信がつく。コミュニケーションに関する自著でも書きましたが、話した相手に『この人と話してよかった』と思ってもらえるのがコミュニケーションだと思うんです。ありのままを伝えた時、『へぇそうなんだ』って認めてもらえるのは、ものすごくうれしい。全部まるごと受け入れて『今のままでいいんだよ』と受け入れたところから、子供たちは自分で歩き始めますね」
小野澤「僕らのアカデミーでも、主役は子供たちです。子供が何を発言してもいいと思える心理的安全みたいなものは、すごく重要ですよね。心理的安全だったり自立性支援だったり、それを小学校の学校教育として形にしているのがすごいですね。
子供の頃にそれを学んできていない人が大人になると、自分で決断ができなくなってしまう。僕は今、女子チームの監督もやっていて、選手に『選択肢はあるから自分たちで決めて』と言うと、彼女たちは見捨てられた感覚になるみたいです(笑)。試合中に僕はグラウンドにはいないから、自分たちで考えた方がいいはずなんですけど、『監督は冷たい…』って(笑)」
山口「(笑)うちはアドバイスをしません。子供同士のトラブルがあると、お互いに気持ちを言わせて、『それはよく分かっているよ』と聞く。次に『責めているわけじゃないけど、僕はこう感じたよ』というのを、それぞれに伝える。そこで指導は終わり。この次はこうしなさいとかアドバイスは一切しない。そうすると子供たちが自分たちで解決して、勝手に成長していく。でも、すべてにおいて指導され、お膳立てされて育ってきた子に『自分たちで…』と言っても、そこにはすごいギャップがあるわけです」