1位じゃないとダメなのか 元オリンピック選手と考える「教育の日本らしさと弱点」
山口氏が指摘する日本の弱点、心から「やりたい」にしないと本当には伸びない
今井「初めてこの学校に来た時に子供の目がすごく違いました。公立、私立、様々な学校を見てきたけど、他者との関係に垣根がない。それはただ幼くて、やんちゃというわけではなく、心の中に入ってくる。『あ、伝わった』という感覚がすごく現場にいると感じます」
山口「イメージとしては二等辺三角形を書いて、上の20%が意識で下の80%が無意識。その間に意識の壁という厚い壁がある。言葉が意識の壁を越えて心に入るかをすごく重視しています。どう言葉をかけたら意識の壁にはね返されず、相手に届けられるか。無意識のところでつながれると、本当の人間のつながりになる。挨拶一つでも心まで届くようにと、こだわっています。頭だけではなく、心から望み、やりたいところにアプローチしないと本当には伸びない。そのための言葉をどうかけるのか、それが日本の弱いところ。スポーツもそこにアプローチすれば、すごい能力が無意識から出るようになるのではないでしょうか」
伊藤「陸上選手は変な話、一人きりでもできてしまうんです。他者とコミュニケーションを取らなくても、競技力を高めることができる。その環境下に長くいると、周りに助けを求める、仲間と協力して何かをやることが苦手な人が多い。今はサッカー選手と会う機会が多いですが、彼らはすごくオープンで、コミュニケーション力が高く、最初の挨拶で握手してきたり、陸上選手にはありえない違いもあります。その競技の中でどういう環境で、どういう教育を受けてきたか。それが海外に行った時に自分の力を発揮する時、影響しているのではないかとも思います。反対に自分とはすごく向き合っているので、何か自分にトラブルが起きた時の心の整え方、どういう風に自分をモチベートして目標に向かうかという点は他競技より上手な点だと思います」
山口「つまり、内省という自分を深めていく作業ですね。私もスポーツはチームプレーをしたことなくて、個人競技ばっかり。自分を深めることをやってきましたが、やっぱりコミュニケーションは苦手。苦手からスタートして、そういう自分だからこそ考えて今があると思っています」
今井「僕はサッカーの指導をしていたので、個人が基本にあります。外国に子供を連れていくと、チームプレーではアピールの仕方が日本の子供はどうしても苦手。そこで必要なのは、タフさと個人との向き合い方です。サッカーの長友選手はフレンドシップが上手で、ロッカールームで男同士の話を上手にやるといいます。どう人の心に入るかは、自分でコントロールしている人もいれば、自然に性格として成り立っている人もいる。それを絶対に通る学校教育で整えてあげる。そこで自然に育てば、スポーツにも生きるかなと思います。結果がビジネス、スポーツ、家庭と何であれ、人との結びつきが基本にあって、その前提は自分がどういう人であるかにある。それは人との交わりの中でできることもあって、だから学校というパブリックな場所が必要になります」