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高校サッカー強豪校が挑む「新しい部活の形」 熱血指導の限界と選手主体の可能性

グラウンドに掲げられている元日本サッカー協会会長の岡野俊一郎氏直筆の旗【写真:加部究】
グラウンドに掲げられている元日本サッカー協会会長の岡野俊一郎氏直筆の旗【写真:加部究】

元イラン代表監督の姿を見て気づかされた「本当の選手育成」

 佐藤は長野パルセイロでコーチを務めていた頃のことを思い浮かべた。

「監督はブラジル人のバドゥさん。1998年にジョホールバルで日本とワールドカップ予選を戦ったイラン代表監督ですが、まったく高圧的なところがなく、まだアマチュアだった選手たちを心からリスペクトしていました。指導者のアプローチの仕方で、これだけ選手たちの姿勢が変わる。高校サッカーでも、こういう人間関係を築けないか。それが本当の選手育成ではないのか、と考えました」

 それを契機に、堀越高校サッカー部はボトムアップ方式へとシフトチェンジしていく。

「もちろん今日からいきなり違う人になるわけではなく、徐々に変わっていったわけですが、見切り発車で試行錯誤の連続。外発的と内発的な動機づけのバランスは、いつも揺れ動いていました」

 特に生まれ変わった部活で、ボトムアップ方式の牽引車を託された当時の主将には、想像を絶する重圧がかかった。

「相当に辛かったと思います。やることの幅が一気に広がり、当然キャパシティ・オーバーになる。でも彼が翌年の主将になる2年生や、2年後に主将を務める1年生もメンバーに組み込み、試合にも使いながら様々なことを教えていった。当然同じ3年生が試合に出られないのはおかしい、という声も出て軋轢も生じましたが、次につなげるために、と言い切って進めてくれました。口数は多くないけれど、芯が凄く強い子でした」

 こうしてボトムアップ方式へと舵を切って3年目に、堀越は全国高校サッカー選手権東京都予選の決勝へ進出する。佐藤が高校1年生だった1992年以来、22年ぶりの快挙だった。(文中敬称略)

第2回に続く

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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