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柔道界の“最強の寝技師”が誕生した理由 地方の劣等感を排除し、伸ばした恩師の執念

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。柔道では、活躍した選手の恩師の育成法をクローズアップした短期連載を掲載。第7回は、女子78キロ級金メダルの浜田尚里(自衛隊)。鹿児島南高時代の恩師の吉村智之氏(現・国分中央高監督)は鹿児島から勝つ方法にこだわり、浜田を鹿児島から九州、九州から全国へと飛躍させた。五輪直前にあったほほ笑ましい秘話も公開する。(取材・文=THE ANSWER編集部)

柔道女子78キロ級で金メダルを獲得した浜田尚里【写真:Getty Images】
柔道女子78キロ級で金メダルを獲得した浜田尚里【写真:Getty Images】

「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#38

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。柔道では、活躍した選手の恩師の育成法をクローズアップした短期連載を掲載。第7回は、女子78キロ級金メダルの浜田尚里(自衛隊)。鹿児島南高時代の恩師の吉村智之氏(現・国分中央高監督)は鹿児島から勝つ方法にこだわり、浜田を鹿児島から九州、九州から全国へと飛躍させた。五輪直前にあったほほ笑ましい秘話も公開する。(取材・文=THE ANSWER編集部)

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 初戦の2回戦から決勝まで4試合すべてを寝技でオール一本勝ち。横四方固め、送り襟絞め、腕ひしぎ十字固め、崩れ上四方固めと面白いように決めた。日本を代表する“世界の寝技師”が初の五輪で躍動した。

 浜田の原点は地元・鹿児島にある。中学時代までは無名の選手。鹿児島南高は県内有数の強豪校だったが、全国を見据えるには遠い位置にいた。「中学で活躍する選手もいたんですけど、そういう選手はほとんど関東に出ていく」。地元に残された形の選手たちは高い目標を掲げるより、目先の目標に向かうタイプが多く、地方校ならではの雰囲気があった。

 それを変えようとしたのが吉村氏だった。

「私も鹿児島の日本では地方の田舎のほうで柔道をやっているので、可能性にかけることの大切さというか、それはよく話をします。たとえば、地方だからできないとか、選手が集まらないからできないということではない。じゃあ、実現するにはどうするかといったら続けるしかない。ちょっとやって結果が出るようなことはあまりないので。田舎だからと劣等感を持たずに、やってやるんだという気持ちを大切にしてほしいなというのが指導の中心です」

 鹿児島南高に赴任後、練習は一生懸命こなす女子選手の姿に、自身のモチベーションも高まったという吉村氏。血気盛んに「鹿児島から日本一」を掲げ、部員の意識改革に乗り出した。「関東の強い選手を見て憧れの目で見てるんですよね。『わー、かっこいい!』とか。いやいや、それじゃ勝負できないだろってこっちは思うんですけど、そういうのも変えたかった」。練習場所は違えど、同じ高校生。「どうせ鹿児島では勝てないから」という意識を捨てさせ、闘う集団を目指した。

 鹿児島南高に赴任して3年が経っていた。浜田が入学してきたのは、ちょうどその頃だった。168センチの身長に魅力を感じてスカウトしたものの、「これは断言していいですけど、まったく弱かったです。寝技は特に」。浜田は5月の全国高校総体(インターハイ)県予選には選手として出場していない。部員の半数以上が試合に出ている中で、浜田の存在は薄かった。

 吉村氏が本格的に浜田を指導したのはその後だった。授けた武器は寝技。3時間半の練習時間で、比率は7:3で7が寝技だった。一般的には8:2で8が立ち技というから思い切った。

「今は寝技をする選手も多いんですけど、強い選手たちはほぼ8割9割の選手が立ち技が得意で、寝技はそんなに得意じゃない。弱くはないけど、強くはないという選手なんですね。鹿児島であまり実績のない選手を集めて日本のトップを狙うにはと考えたら、立ち技はやるけど寝技主体というのが私の考えだったので、チームとしては寝技の強化をずっとやってました」

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