「蹴るな、走るな、歩け!」 高校サッカー異端の名将、王国に憧れ極めた個人技スタイル
のちにジーコも日本代表に提言「スピードを落としても正確にプレーすることが大切」
だが、後半も浦和南が追加点を奪う。ここでテクニカルエリアに出てきた静岡学園の井田監督は、ピッチに向けて大声を張り上げた。
「蹴るな、走るな、歩け!」
ここから静岡学園が本来のプレーを取り戻し、試合は終盤にかけて緊迫の度合いを増す。結局浦和南が5-4で制したが、静岡学園が提示したゆっくりとテクニカルに支配していくスタイルは、格好の議論のテーマを提供した。
「急いで走ればミスが出る。だから、あの指示を出した」
井田監督は説明した。ちなみに数年後には、フラメンゴの一員として来日したジーコが「日本代表はもっとスピードを落としても正確にプレーすることが大切だ」とアドバイスを送っている。
もちろん、静岡学園も時代の変化とともに様々なスピードを加え、磨きをかけていった。だが技術を大切にして、丁寧に崩す原点は変わらず、多くの名手を輩出し、ファンの共感も呼んだ。その後もテクニックをベースに戦うのは、日本サッカーの特徴としても定着した。
皮肉なことに、それはデュエルと不確実なカウンターばかりに走る現在の日本代表にとっても、アンチテーゼになっているかもしれない。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)