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指導者の役割は「視点」を与えるだけ 近江サッカー部監督×楽天大学学長のチーム育成論

元プロサッカー選手で近江高校サッカー部の監督を務める前田高孝(まえだ たかのり)さんが近江高校サッカー部に就任したのは2015年。3年後には滋賀県大会優勝。しかし、夢中で結果を出してきたものが、いつの間にか必死に変わり、上手くいかないことが増えていた時、元サッカー日本代表・菊原志郎さんと仲山進也(なかやま しんや)さんの著書『サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質』と出合う。仲山さんに連絡を取ったことが二人の始まりだ。「夢中と必死の違い」というまさに求めていた答えを得、自己理解が深まったという。そんな前田高孝さんと、組織・コミュニティ育成の専門家である仲山進也さんとの対談を通じて「育成年代におけるチーム育成の本質」を紐解いていく。(取材=2020年4月3日/聞き手・文=今井 慧 写真=森田 将義、守谷 美峰)

対談「サッカー育成年代におけるチーム育成の本質とは」後編

 元プロサッカー選手で近江高校サッカー部の監督を務める前田高孝(まえだ たかのり)さんが近江高校サッカー部に就任したのは2015年。3年後には滋賀県大会優勝。しかし、夢中で結果を出してきたものが、いつの間にか必死に変わり、上手くいかないことが増えていた時、元サッカー日本代表・菊原志郎さんと仲山進也(なかやま しんや)さんの著書『サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質』と出合う。仲山さんに連絡を取ったことが二人の始まりだ。「夢中と必死の違い」というまさに求めていた答えを得、自己理解が深まったという。そんな前田高孝さんと、組織・コミュニティ育成の専門家である仲山進也さんとの対談を通じて「育成年代におけるチーム育成の本質」を紐解いていく。(取材=2020年4月3日/聞き手・文=今井 慧 写真=森田 将義、守谷 美峰)

 ◇ ◇ ◇

――現代の高校生って、僕らが高校生だった頃とは違いますよね。あまり感情を出さないというか。

前田「僕は勝気な人間だったので、サッカーなら1対1で絶対に負けたくなかったし、試合で負けると悔しかった。今の子たちは勝気なところを持っていますが、他人に見せないし、どう表現していいのか分からないところがあるような気がします。感情を出すことで周囲から『なんだよ、それ』と指摘されることを恐れているのではないかなと思っています。僕は、グラウンドは喜怒哀楽を表現できる場所であってほしいと思います。仲間たちの前でサッカーしているときは感情を出してやっていました。今の選手は周りからどう思われるかを恐れているし、気にしていると思います」

仲山「まさに心理的安全性の話につながると思います。『こんなこと言って大丈夫かな?』と不安に感じてしまうのは、心理的安全性が確立していない状態なので。昔のように、強気な選手がいて、負けてくやしい感情のまま激しく本音を言ったとしても監督が咎めなかったら、『あんな風に感情を出してもいいのか』と分かるので、ほかの選手もその後、感情を共有しやすくなります。そういうことが積み重なって心理的安全性はできていきますが、みんな大人しくて最初に感情を爆発させる子がいないと、いつまでも『あれでいいんだ』と気付けません」

――感情表現することは大事だと思うのですが、日本の子どもたちは自己主張すること、自分を表現することを良しとしない空気感のなかで生きていると思います。それがサッカーに悪影響を及ぼしている気がします。そんな中で、夢中になるのって難しい気もします。

仲山「夢中になる秘訣は、サッカーを遊ぶことです。『勝たなければならない』というのは仕事っぽいけど、『俺たちより強いところに勝てたら面白くない?』というノリは『面白い遊びがあるからやろうぜ!』というのと同じですよね。遊びって、『退屈な状態を抜け出して夢中になるための活動』です。だから、遊んでいる人は、退屈や不安を感じたら夢中になれるようチューニングを変える工夫をしています。近江高校も、最初は遊びのような感覚だったから、みんなで夢中になってやれていたのでしょう。でも、負けてはいけないという雰囲気が生まれると、仕事をやらされているような気分になって、うまくいかなくなります」

前田「夢中になれているかどうかは、良いトレーニングか悪いトレーニングかを見分ける視点だと言われていましたよね。夢中になれている時は、強度が自然と上がっていることに気付きましたし、彼らがトレーニングしているときに気を配るようになりました」

仲山「マリノスのスクールコーチに同じ話をしたら、『子どもの見方が変わってきた。前は自分が言ったことをきちんとやっているかを見ていたけれど、夢中の図を知ってからは退屈そうじゃないか、夢中でやれているかを見るようになって、お題のチューニングを変えてみようと思えるようになった。そうすると子どもが楽しそうにやるようになって、手ごたえが変わってきた』という話をしていました」

前田「幼稚園や小学校くらいの子どもと一緒にサッカーをやっていたときは、『どうやったら話を聞いてくれるかな』『こうしたら楽しんでくれるかな』を考えていました。彼らは夢中になれることしかやらないですからね」

仲山「ただし、『夢中にさせる』という表現には要注意です。ある学校の先生が、子どもを夢中にさせるためにいろいろな遊びをやらせていたら、女の子が『先生、もう遊んでいい?』って聞いたという話があります(笑)。夢中にさせようとすると、やらされ感が出るのです。だから『夢中にさせる』のではなく、『夢中になりやすい環境を作る』ことが大切ですね」

前田「仲山さんの話で『夢中になれるような人を育てたら良い育成』という言葉が印象に残っています。自分の人生を振り返ったときに大事なことだなと思いました。夢中になれたら、サッカー以外のどんなことをしていてもハッピーになれると思います」

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