伸びる伸びないの差は「考える力」 日体大の跳躍コーチが子どもたちに伝えたいこと
「伸びるか伸びないかの大きな差は、才能よりも自分で賢く考えながら取り組めるかどうか」
だが、走高跳を追究しようと進んだ日本体育大学で出会ったトップ選手に、あらためて考える力の大切さを思い知らされた。
「日体大のグラウンドで練習をしている実業団の選手がいたんです。日本一になったすごい選手で、日本記録を持っている憧れだった選手。練習する機会を多くいただく中で気付いたのが、ものすごく自分で考えているな、ということ。大学生になって伸びるか伸びないかの大きな差は、才能よりも自分で賢く考えながら陸上競技に取り組めるかどうか。考える力が大きな範囲を占めていると感じました」
引退後、指導者となってからも、成功のカギを握るのは「考える力」にあると感じる場面にたびたび遭遇してきた。
「大学生を教えていると、ずっと中高と教え込まれて育ってきた子たちは、僕が『今日の跳躍動作はどうだった?』と聞いても、答えられないんですね。自分の感覚を持てていないというか、あまり考えていない。『どうでした?』『どうしたらいいですか?』と、僕に判断を委ねてくることが多いです。もちろん、僕は答えを持っているけれど、自分で考えなかったら、その場しのぎで終わってしまう。僕のアドバイスを聞けば少し良くなるかもしれないけれど、すぐ忘れてしまうんですよ。学習の観点から見ても、自分で考えて得た答えほど身につきますから」
大学院でコーチングについて学び始めると、現役時代に感じていた考える大切さと、理論がリンクし始めた。「小さい頃から考える能力を高めていけたら、どんなスポーツでも、あるいは社会に出ても、挫折しないで課題に取り組む力を身につけられるのではないか」。そんな想いを、大学院でクラスメートだった小野澤氏に話したことをきっかけに、今回の「BUランニングパフォーマンスアカデミー」開講につながった。
アカデミーでは「子どもたちが持っている目的を達成するために支援しながら、一緒に寄り添って進むスタイル」を目指す。「強要はしたくないし、一人一人の子どもを理解した上で、その子に合った方法を探っていきたい」と、それぞれに指導方法をカスタマイズ。子どもたちと「何でも相談できるような」信頼関係を築くためにも、定員は20人に限ることにした。
「子どもたちの考える力を育むために、僕からたくさん質問すると思います。足が速くなったり運動能力が上がったりする過程で『どうすればいいんだろう?』と考えることが、問題解決能力のアップにもつながっていく。陸上をやっている人たちって、ただ歩いたり走ったりするだけで楽しいと思える人が多いんですよ(笑)。今の足のつき方がメチャメチャ気持ち良かったなとか、体重の乗せ方が最高だったなとか。自分の体と対話して、体を動かす楽しさを子どもたちにも知ってもらえたらうれしいですね」