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甲子園に「無理して出る思いはない」 高2でTJ手術→翌年ドラ3指名…“高校で燃え尽きない”選択肢――健大高崎・佐藤龍月

オリックスから3位指名を受け、涙を流した佐藤(右)と石垣元気【写真:山野邊佳穂】
オリックスから3位指名を受け、涙を流した佐藤(右)と石垣元気【写真:山野邊佳穂】

開始から1時間18分後…3位指名で涙「恩返しができた」

 そんな手術までの経緯を聞いたのが、リハビリ中だった冬のセンバツ出場校発表でのこと。

 取材をした際に受けたのは「大人びている」という印象。選手によっては思い出したくなかったり話したくなかったりする怪我や手術について、記者が遠慮がちに質問しても、しっかりと回答し、自身の現在地を受け止める。そこには夢に対し、揺るがない強さがあった。

 あれから9か月。運命のドラフト会議当日、佐藤は制服姿で石垣と共に報道陣の前に登場し、リラックスした表情を浮かべていた。2球団が競合し、ロッテが石垣の交渉権を獲得した際には、穏やかな表情で拍手。自身の指名を待つ途中に行われた中継インタビューにも気丈に対応した。

 ただ、その瞬間は違った。

 開始から1時間18分。オリックスの3巡目で「佐藤龍月」の名前が呼ばれた。チームメートの大歓声を耳に、画面を見つめた目には少しずつ涙が浮かんだ。時折俯いて、目頭を押さえる。「辛い時期を支えてくれた方に恩返しができたと思ってうれしかった」。その表情は、佐藤の挑戦の大きさを表していた。

 かつては甲子園のためにすべての犠牲を払い、高校で燃え尽きることも辞さない風潮があった。日本一を一度経験したとはいえ、「プロ野球選手」という次のステージを見据え、高校在学中にトミー・ジョン手術を決断。道を切り開いたことは次世代の高校球児にとっても、ひとつの選択肢になる。

 新しい道はここから始まる。「スライダーのキレを見てもらいたい。マウンドに立ったら、誰もが安心してくれるようなピッチャーになりたい」。失意の中で下した決断は、今日の歓喜につながっていた。

(THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂 / Kaho Yamanobe)

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