偏差値75の九州御三家から全国8位に 勉強は文系1位、今も公衆電話…「プラチカ」封印し、死ぬ気で腕を振った高校ラスト100m――青雲・下田慶

勉強も部活も…二兎を追う理由「『面白い』が2つある方がいい」
陸上との出会いは、意外と遅い。
中学で最初に入ったバスケ部は学業優先で活発ではなく、中3になって、青雲では最も盛んな陸上部に転部した。専門は長距離。ただ、結果はなかなかついてこない。後輩にもタイムを抜かれるみじめさ。
勉強だけに絞れば楽になれる。「陸上を辞めたい」。何度そう考えたか分からない。転機は2年生の6月。1600メートルリレーで北九州総体に出場したことが、小さな成功体験に。長距離も短距離も関係なく、チームで走る楽しさが、心に火をつけた。
「つらい練習をやりきった後も、仲間と苦しみを分かち合って練習できたから辞めずにいられた」
スピード練習で脚力が強化され、正しく努力をすればタイムは伸びると実感。すると、練習が楽しくなった。それをきっかけに800メートルに転向。メキメキと頭角を現し、「全国」が夢じゃなくなった。
そうは言っても超のつく進学校。6月2日の県総体後は受験対策が本格化し、8時間授業になった。
授業が終わるのは5時過ぎ。部活は5時45分終了。練習できるのは、たった30分くらい。
昼休み。制服のまま一人、走り込んだ。午後の休み時間。ランパンとTシャツを制服の下に隠して着こむ。8時間目終了のチャイムが鳴り、教科書を閉じると同時にグラウンドに飛び出していく。
とても全国を目指すとは思えない環境。にもかかわらず、6月15日の北九州総体で2位に入り、初のインターハイ切符を手にした。
そして、もっとも胸を張るべきは勉強も疎かにしていないこと。
理系150人より少ないが、文系では学年50人中1位。二兎を追うものはなんとやら。一つに絞った方が……と思ってしまうが、しかし――。
朴訥な口ぶりで、でも、まっすぐな目で彼は言う。
「勉強で自分の叶えたい夢に向かって頑張ることが面白いし、スポーツで生きていこうと明確な意志を持って懸けている強豪のすごい人たちと一緒に走れて、そこで勝負できるようになるのもまた面白い。『面白い』が2つある方がいいかなって」
「文武両道」という手垢のついた言葉で括るより、ただ純粋に、青春を楽しむ要素が2つある方が人生が豊かであると思っている。
挑んだ集大成の夏。本気の証しは遠征バッグの中身にあった。
「いつもは参考書を持ってくるけど、今回だけは持ってきてないです。ペンも握っていません」
その1冊分の覚悟がコンマ数秒を削り出す。予選は1分53秒46で組2着に食い込み、全国24人にしか許されない決勝のスタートラインに立った。
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