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偏差値75の九州御三家から全国8位に 勉強は文系1位、今も公衆電話…「プラチカ」封印し、死ぬ気で腕を振った高校ラスト100m――青雲・下田慶

 7月25日から5日間行われた陸上インターハイ(ホットスタッフフィールド広島)。熱戦を取材した「THE ANSWER」は文武両道で部活に励む選手や、困難な環境の中で競技を続けてきた選手などさまざまなストーリーを持つ選手を取り上げる。男子800メートルに出場した下田慶は偏差値75、九州御三家といわれる難関校・青雲(長崎)の3年生。スマホ持ち込み禁止で財布にテレフォンカード、今も公衆電話を使う寮生活から、全国8位へ――。文系で学年1位の東大志望がこの大会だけは参考書を封印し、駆け抜けた昭和みたいな青春に迫った。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

九州御三家といわれる難関校・青雲から800メートル8位入賞した下田慶(中央)【写真:荒川祐史】
九州御三家といわれる難関校・青雲から800メートル8位入賞した下田慶(中央)【写真:荒川祐史】

陸上インターハイ/男子800メートル 青雲・下田慶

 7月25日から5日間行われた陸上インターハイ(ホットスタッフフィールド広島)。熱戦を取材した「THE ANSWER」は文武両道で部活に励む選手や、困難な環境の中で競技を続けてきた選手などさまざまなストーリーを持つ選手を取り上げる。男子800メートルに出場した下田慶は偏差値75、九州御三家といわれる難関校・青雲(長崎)の3年生。スマホ持ち込み禁止で財布にテレフォンカード、今も公衆電話を使う寮生活から、全国8位へ――。文系で学年1位の東大志望がこの大会だけは参考書を封印し、駆け抜けた昭和みたいな青春に迫った。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

 男子800メートルのタイムレース決勝1組。ラスト100メートル、コーナーを抜ける。前をいくのはライバル1人だけ。

 これが高校最後のレースとなる下田慶の頭の中に、つらかった3年間の情景が次々と浮かんできた。ただの土のグラウンド。サッカー部と共用で、タータンも、照明もない。練習は夕方5時45分で終わり。恵まれているとはお世辞にもいえない環境で汗にまみれた日々。

 暑い。苦しい。肺の悲鳴が聞こえてくる。でも、大会前に仲間と約束を交わした。「ラスト100メートル、しっかり腕を振ろう」と。

「行くしかない。ここで振らなきゃ、いつ振るんだ」。もう潰れてもいい。死ぬ気で腕を振った。すると、誰かが背中を押してくれた気がした。わずか0秒04差競り勝ち、1着でゴール。ミックスゾーンで取材に答えていると2、3組が確定した。直後、顔なじみの選手が飛んできた。

「お前、8位だぞ!」

「えっ、マジで! 入賞……俺が?」

――言葉を失った。今度は報われたこれまでの苦労が、ひとつひとつ脳裏に浮かんできた。

 長崎・南島原市の人口4000人に満たない自然豊かな田舎町・布津出身。海を泳ぎ、山を駆けて育った。都会を味わえるのは隣町のイオンくらい。「海でよく釣りをしました。よく釣るのはガンバ……あっ、フグのことです。島原の方言なんです」

 小学校は学年28人。幼稚園から高校まで顔ぶれは変わらず、みんな兄弟のように過ごす。故郷も、友達も大好きだった。でも――。釣り糸を垂らす海の向こうに広がる世界は、ずっと広い。母に言われた。

「せっかくなら布津を出て、上を目指してみたら?」。その言葉に心が沸き立ち、人生で最初の決断をした。

 車で40分かかる隣町の塾に小5から通い、猛勉強で県No.1の難関・青雲中に合格。12歳で親元を離れ、学校隣接の寮に入った。高校から医学部合格者を毎年、多数輩出する学校で送る日常を明かす。

「朝6時40分に点呼があって、授業に行って部活が終わり、夜6時に帰ってきて、食事・風呂。それから夜7時から11時まで自習です。先生も見回っているので、みんな真剣にやってます。それでやっと就寝です」

 さらに続ける。

「寮はスマホ持ち込み禁止で、家には公衆電話でかけるんです。だから、僕の財布はテレフォンカードがたくさん入ってます(笑)。でも高いですよね、100度数で1000円って。それで15分、20分しかできなくて」

 令和7年、高校生のエピソードである。

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