八丈島唯一の高校サッカー部と島民の物語 部員14人をサポート、離島ならではの交流文化とは
高校生と練習試合ができない代わりに大人のチームと対戦
広範囲を守った守護神の石川は「大人の応援もあって、プレッシャーを感じますよ。こっちに来る時(※往路は飛行機移動)も、空港で送ってくれたし」と、少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
石川が思い浮かべていたのは、会場には来ていない、島の大人たちのことだった。彼は、内地の出身。中学時代に友人が離島の高校に進学すると聞き、興味を持って調べたところ、兄と同じ緑地環境系の仕事に進むのに適していそうな園芸科がある八丈高を見つけたのが進学のきっかけだった。
都心とは異なり、大自然に囲まれた島の生活は楽しいという。原付バイクで移動する毎日。釣りの環境も抜群だと笑う。人数が少なく、練習試合も滅多にできないサッカーの環境はどう感じているのか。石川は「サッカーは、いつも大人の方とプレーしています。(高校の部員の)人数は少ないですけど、島では誰でも参加できる大会があって、警察官ばかりのチームも参加するし、多い時は20チームくらい参加して、和やかで結構楽しいです」と答えた。
チームを率いる高橋京平監督によれば、島の大人たちの間で、サッカーは盛んだという。正月からサッカー大会を行うほどで、ソサイチと呼ばれる7人制大会やフットサル大会などが盛んに行われ、島民の交流の場となっている。大人たちが高校生の練習を手伝い、島の大会では、八丈高の部員が審判などを務めて大会運営の主力となる。
高校生だけでは人数不足に陥る八丈高イレブンは、この交流文化を土台として成り立っている部分がある。10番を背負った唯一の3年生、浅沼は「島は大人の方がいてこその環境で、サッカー部も支えられている。島だからこその環境。同じ世代の高校生と試合はできないけど、いろいろな方と(サッカーを通じて)関われるのは嬉しい。(卒業後は)何かしらの形で協力できたらいいなと思っています」と感謝を示した。
もちろん、感謝を示す最高の形は勝利だと知っている。昨年は、高校選手権の支部予選1回戦で都立足立東高に4-0で勝利。2回戦では都大会の上位に入ることもある東京実業高に0-12で大敗した。島の出身である3年生10番の浅沼は、「今は1年生が7人入ってくれて試合をできるくらいになったけど、昨年は全員で10人程度で、試合にも(普段は部活動をしていない)助っ人を呼んできた。足立東も人数不足で9人とかだったので、人数がいた分で勝てたけど、2回戦はボコボコだった」と振り返った。
1勝できるかどうかのラインにいるが、その先を諦めているわけではない。浅沼は夏に始まる高校選手権の支部予選前には進路を決め、最後の舞台には気がかりなく挑戦するつもりだと話し、「やっている以上は勝ちたいし、本気でやりたい。自分は高校までは本気でやると決めている。とにかく勝ち進んで、行けるところまで」と言い切った。GK石川も2年生ながら高校サッカーの挑戦は今年で区切りをつけるつもりで、選手権予選での活躍を誓っていた。