部活動の地域移行は「子供のため」であるべき “働き方改革”先行の流れに懸念の声も
部活動には「トップを目指す子もいれば、仲間と楽しみたい子もいる」
地域クラブ活動が始まると、講習料や保険など学校部活動では無縁だった受益者負担が生じ、経済的に困窮する家庭には重荷となる。白岡市が最も悩んでいる課題が、地域クラブ活動の指導に兼職兼業の教員があたるケースだという。
どちらも先生に教わるのに、平日は無料で休日だけお金がかかるのはなぜ?――という疑問と不満が出てくるからだ。石島指導主事は「負担が多いと塾や習いごと、会員制クラブとどこが違うのかということになる」と、保護者への説明や徴収のやり方に苦慮する。
モデル事業では国からの委託金もあり、白岡市は2年間無料で運営したが、新年度からは月額最大で1500円の会費を見込んでいる。
福島県会津若松市は受益者負担を公費で捻出する方針だが、こんな太っ腹の自治体はそう多くはない。
政府の23年度予算案では、地域移行に充てる事業費は28億円。文科省は昨夏の概算要求で118億円を計上していたが、22年度の第2次補正予算19億円を合わせても47億円と要求額の半分以下しかない。
とにもかくにも新年度には、準備の整った自治体から学校部活動の地域連携、地域クラブ活動への移行が段階的に始まる。
埼玉県スポーツ協会の久保正美専務理事は、「学校の働き方改革の考えが残っているので、もっと子供目線で進める軌道修正が必要ではないか」と慎重な立場だ。
「部活動にはトップを目指す子もいれば、仲間と楽しみたい子もいる。地域移行によって経済的負担も出てくれば、みんなが参加している今の環境が堅持できるのか不安だ」
文科省は地域クラブ活動の指導者として、教師の兼職兼業も挙げるが、久保専務理事は「教育委員会が週に80時間も残業する教員に兼職兼業を認めるだろうか」と疑問視する。
埼玉の県立高校教諭と水泳部顧問をはじめ、校長職や県教育委員会体育課指導主事、県高体連理事長らを歴任。スポーツ行政に長く身を置き、部活動とスポーツの現場を知り尽くすだけに、思慮深い見解だ。
現場の反応はどうか。
昨秋、埼玉県新人大会を制した越谷市立大相模中軟式野球部顧問の長瀬翼教諭は、「学校の働き方改革が先行し、子供ファーストでないのが疑問です。子どもたちが専門の指導者に教わることが目的の地域移行であってほしい。私は子供たちのために、という覚悟でぶれずにやっていきたい」と述べた。