早稲田大ハンドボール部の歴史を繋ぐ3人 三者三様に抱く競技への想い【#青春のアザーカット】
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、今でもコロナ禍の影響がそこかしこにくすぶっている。
連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、今でもコロナ禍の影響がそこかしこにくすぶっている。
便利だけどなぜか実感の沸かないオンライン。マスクを外したら誰だか分からない新しい友人たち。楽しいけれど、どこかモヤモヤする気持ちを忘れられるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
「今」に一生懸命取り組む学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。何よりも大切なものは、地道に練習や準備を重ねた、いつもと変わらない毎日。何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)
21頁目 早稲田大学ハンドボール部 3年・川村夏希さん、2年・山本桃虹(とうこ)さん、2年・白築琢磨くん
「空中の格闘技」とも称されるハンドボールは、「走る・跳ぶ・投げる」が一体となったエキサイティングな競技だ。
ゴールキーパーを含む7人編成のチーム同士が、前後半30分ずつの計60分を戦い、相手ゴールに1点でも多く決めた方が勝利する。足でボールを蹴ったら反則。ボールを手に持ったら3歩・3秒以内にパスをしなければならない。選手交代は無制限。ボールと人が絶えず動き回るスピーディな展開で観る者を飽きさせない。
それはまるでサッカーとバスケットボールを融合したようである一方、守備側が攻撃側に対して正面から体をぶつけるボディコンタクトが認められており、激しい体と体のぶつかり合いはラグビーのようでもある。
ヨーロッパ発祥のハンドボールが日本に伝わったのは1920年代のこと。1938年、慶應義塾大学に次ぐ大学ハンドボール部の草分け的存在として早稲田大学ハンドボール部が産声を上げた。大正時代から早稲田スポーツの拠点となってきた東伏見キャンパスでは、発足から85年経った今も部員たちが歴史を紡いでいる。
白築くんに競技を続けさせた不完全燃焼感と感謝の気持ち
小学6年生からハンドボールを続ける白築くんは、高校時代の不完全燃焼感を乗り越えるため、大学でも競技を続けている。通っていた早稲田実業は言わずとしれた高校野球の名門も、ハンドボールでは「強豪ではなく、良くて都大会で3位くらい」。だが、2019年11月、その歴史が動いた。白築くんが最上級生として迎えた東京都の秋季大会で、創部以来初優勝を飾った。
「東京都で優勝して、翌年2月の関東大会も勝ち抜いて、全国大会に初出場できることになったんです。でも、ちょうどそこでコロナが流行り始めて、全国大会は中止になってしまって……。部として歴史を刻めたので結構モチベーションは高かったんですけど、仕方ない部分はある。ただ、なんだか燃焼しきれない感じが残りました」
高まる気持ちがポキリと折られた。その後も3年生として迎えるはずだった大会は軒並み中止。モヤッとした気持ちのままでは辞められないと、大学でも続けることにした。
早稲田大学男子ハンドボール部は関東学生リーグ1部に所属。全日本学生選手権大会での勝ち上がりを目指し、練習を重ねている。新3年生となる白築くんの代は選手が3人と少ない。“ハンデ”と見られることもあるが、「少ないから弱いと見られるのが嫌。僕らが最上級生になった時に強かったら格好いいと思うので、結果を残せたらと思います」と頼もしい。
新チームのコンセプトは「向き合うこと」だ。「コミュニケーションを取りながら、一人ひとりが苦手なことから逃げないで、何事にも向き合うことがモットー。泥臭さというか、底力みたいなものがあると思います」。白築くんは攻撃の要となるセンターバックやレフトバックを担い、「小柄でもスピードあるプレーや周りを生かしたプレーができることが武器」と自己分析する。
10年近く続けてきたハンドボールからは「協調性」を学んだ。「自分だけでは絶対に勝ちに繋がらない。周りを見て協力することが大切だし、社会にでも役立つと思うんですよね」。中学と高校では主将を任されたことも、視野を広げる後押しをした。
実は、大学でハンドボールを続ける理由がもう一つある。「子どもの頃から親にはいい環境でハンドボールを続けさせてもらった。そこの恩返しというか、そんな感じです(笑)」。姉と兄の影響を受け、東久留米ハンドボールクラブから踏み出した一歩が、ここまで続いたことに感謝すると同時に、驚きにも似た思いもある。そして、大学で再び繋がった同級生との縁もある。
「女子部の山本とは小学生の時のハンドボールチームと中学が同じ。高校は別でしたけど、また大学で一緒になりました(笑)」
ハンドボールに染まっていた山本さんの視野を広げた授業での刺激
父と姉兄の影響でハンドボールを始めたという山本さん。小学生の時に引っ越した先の東久留米市は、偶然にもハンドボールが盛んだった。白築くんと同じ東久留米ハンドボールクラブに入り、地元の強豪・東久留米西中学に進んだ。公立ながら男女ともに全国大会で何度も優勝。白築くんも山本さんも異口同音に「全国大会出場は当たり前だった」というハイレベルな環境でスキルを磨いた。
高校は全国大会常連の佼成学園女子(東京)に進学。各地から有望選手が集まる強豪校での練習はきつかった。「正直、辞めたいなとか、なんでこんな辛い道を選んだのかなと思ったこともあります」と振り返るが、3年生になった2020年、予期せぬコロナ禍に襲われ、思いを新たにした。
活動自粛中は石川浩和総監督と安藤希沙監督が中心になり、部員のモチベーションが下がらないよう「熱心に寄り添ってくれました。最上級生だったので、先生と毎日オンラインミーティングをしましたね」。ミーティングは4、5時間に及ぶこともあったが、「何を目指してやっているのか分からない気持ち」は解消された。
練習が再開されると部活ができる喜びや楽しさを改めて実感。支えてくれた家族や指導者たちに「もっとハンドボールをする姿を見てもらいたい」と大学でも続けることにした。「小中高とがっつりハンドボールの世界しか見てこなかったので、ハンドボール以外にも自分の好きなことや強みを見つけられる大学で成長したいと思い、両立できる早稲田大学を選びました」と話す。
女子ハンドボール部も関東大学リーグ1部に所属するが、2022年秋季リーグは最下位となり、2部降格の危機を間一髪乗り切った。「結構厳しい目標」という“リーグ戦2位以上”。そこまでどうやってチーム力を上げていくのか。「強いチームになるためには、私たち下級生がもっと頑張って押し上げていかないといけないと思います」と丸い目を輝かせながら言い切る。
大学では部活以外にも大いに刺激を受けている。学生自ら社会問題を見つけ、仲間と一緒に解決に向けたプロジェクトを起こす授業では「クラウドファンディングで資金を集めたり、起業したり、実際に行動する学生が多いんです。自分が社会に対して関心を持てるようになったことも含め、かなり刺激を受けていますね」。文武両道の大学生活は、充実の毎日だ。
初めて経験する取材にも臆することなく、相手の目を見ながら自分の言葉で真っ直ぐ答える山本さんだが、かつては人見知りだったという。それを変えてくれたのが、1学年上の川村さんだ。2人の出会いは高校時代、佼成学園女子に遡る。
本音で築くチームワーク、後輩が感謝する川村さんの優しさ
大阪で生まれ育った川村さんは小学4年生からハンドボールを始めた。中学では部活に入らず、クラブチームでハンドボールをプレー。強豪校でプレーするため同期2人と上京し、佼成学園女子では寮生活を送った。日本一を目指す練習はきつかったが、一つの目標に向かって努力した日々は充実していた。そして何より、人として成長させてもらったと感謝する。
「総監督や監督が人間性をすごく大事にする方で、本音で人間関係を築かないと浅い関係になってしまうし、いいチームにはなれないと教えていただきました。考え方や行動の基礎を形成してもらったのは、ハンドボールを通じての指導でした」
仲間のためになることであれば、相手にとって嫌なことであっても伝える。時として、本音トークは難しく勇気のいることで、「それが結構苦しい課題だった」という山本さんはかなか素を出せずにいたという。そんな時、積極的に声を掛けてくれたのが川村さんだった。本音を投げかける一方、わずかな変化にも気付き、落ち込んでいる時は励ましてくれた。「強い言葉でも自分のために言ってくれていると分かる。それが本当の優しさ」と感謝は尽きない。
長身を生かしてゴールキーパーを務める川村さんにとって、小柄ながら重要なセンターバックで活躍する山本さんは頼もしい存在だ。「ハンドボールセンスにおいては抜群。力強さがありつつも機敏なプレーヤー。山本が守るところはそれほど注意を払わなくてもいいですね」と太鼓判を押す。
大学卒業後は日本ハンドボールリーグでのプレーを希望。日本代表選手を数多く輩出する強豪大学への進学も考えたが、家族にも相談して「大学で得られるものはハンドボールだけじゃない」と早稲田大学に進んだ。
「人の繋がりや学びという点でも4年制の総合大学に進みたいと思いました。部活は学生主体の運営で大変なところもあるけれど、だからこその楽しさもある。大学の友人の中には他競技のオリンピック選手がいたり、年代別代表がいたり、色々な刺激を受けるので自分も頑張りたいと思える環境があります」
最上級生となった今年、春秋のリーグ戦で2位以上、インカレでのメダル獲得を目標に掲げる。「何と言ってもチームスポーツなので、同期だけではなく後輩たちの話を聞くことも心掛けています」と、部活内のコミュニケーションを重視しながら上位進出の道を模索。高校で学んだ本音の付き合いは、大学でも変わらず続けている。
「下級生には結構、厳しく感じる面もあると思います。でも、下級生がそれに応えようと頑張ってくれる。それを上級生はすごくありがいたと感じています。上級生が引っ張り、下級生が押し上げてくれる。そんなチームカラーがあるのではないかと思います」
ハンドボールを中心に、少しずつクロスしながら東伏見に集まった3人。それぞれの目標に向かい、今日もひたむきに練習を重ねる。
【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。
皆様のご応募をお待ちしております。
■南しずか / Shizuka Minami
1979年、東京生まれ。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材をはじめ、大リーグなど主にプロスポーツイベントを撮影する。主なクライアントは、共同通信社、Sports Graphic Number、週刊ゴルフダイジェストなど。公式サイト:https://www.minamishizuka.com
南カメラマンが捉えたハンドボールが繋いだ3人の笑顔
撮影協力:Pictures Studio赤坂
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)