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名門・新体操競技部4年生の最後の一日 「最高に楽しかった」集大成の踊り【#青春のアザーカット】

学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、今でもコロナ禍の影響がそこかしこにくすぶっている。

プロローグ「宇宙誕生」で息の合った演技を披露する部員たち【撮影:南しずか】
プロローグ「宇宙誕生」で息の合った演技を披露する部員たち【撮影:南しずか】

連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常

 学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、今でもコロナ禍の影響がそこかしこにくすぶっている。

 便利だけどなぜか実感の沸かないオンライン。マスクを外したら誰だか分からない新しい友人たち。楽しいけれど、どこかモヤモヤする気持ちを忘れられるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。

「今」に一生懸命取り組む学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。何よりも大切なものは、地道に練習や準備を重ねた、いつもと変わらない毎日。何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)

19頁目 東京女子体育大学新体操競技部 2022年度部員79人

無数に並ぶトロフィーや盾に見守られながら本番への準備を進める【撮影:南しずか】
無数に並ぶトロフィーや盾に見守られながら本番への準備を進める【撮影:南しずか】

 11月2日に行われた学内発表会。東京女子体育大学新体操競技部の4年生にとって、最後の部活動の日でもある。2022年度のメンバーで演技するのは、泣いても笑ってもこの日まで。とびっきり最高のパフォーマンスを披露するため、早朝7時からリハーサルに励んだ。

 出演するのは1年生から4年生まで、総勢79人の全部員だ。8月に開催された新体操研究発表会での演目を再演し、恩師や関係者、友人、家族らに1年の集大成を届ける。今年のテーマは「宇宙~Mugen∞」。コロナ禍で何かにつけ縛られがちな“制限”を打ち破る、そんな荘厳さを感じさせるテーマだ。

 日本新体操界で屈指の名門校。2021年に新築されたばかりの練習場には数え切れないほど多くのトロフィーや盾が並ぶ。インカレ(全日本学生新体操選手権)では2014年まで団体総合65連覇。その後は試練の時を過ごしたが、今年ついに8年ぶりの優勝を飾ると、10月の全日本新体操選手権(オールジャパン)でも団体総合で6年ぶりの頂点に立った。

 79人の大所帯となれば、新体操競技部の門を叩いた理由や競技レベルは様々だ。日本代表フェアリージャパンでも活躍する今岡里奈さん(2年生)のような部員がいれば、競技歴の浅い部員もいる。1年生の上野まやさんは高校から本格的に取り組み始めた。

 高校生の時、恩師に勧められて研究発表会を観覧した上野さんは「表現がすごく素敵」と感動。オープンキャンパスでも新体操競技部の演技に圧倒され、「私もこうなりたい」と進学を決めた。実際に入部してみると「私はまだダメダメで……」と肩をすぼめるが、「華やかに見える舞台の陰には大変な練習がいっぱいあるんだと感じました。でも、それを越えて、みんなで作品を完成させた時がすごく幸せで、この大学に来てよかったなと思います」と目を輝かせる。

新体操研究発表会に感動「見ている側が笑顔になれる演技」

薄手の布を空中にフワリと浮かび上げるにはピタリと合った呼吸がカギ【撮影:南しずか】
薄手の布を空中にフワリと浮かび上げるにはピタリと合った呼吸がカギ【撮影:南しずか】

 中学から新体操を始めたという高頭亜結さん(2年生)も入学の決め手となったのは、高校生の時に見た研究発表会だった。「たくさん人数がいるのに一つにまとまっていて、レベルの高さに感動しました。しかも、見ている側が笑顔になれる演技がすごく印象的でした」。思い切って入部してみると「めちゃめちゃ楽しいです!」と笑顔が弾ける。

 高頭さんら2年生にとって、今年の4年生は思い入れの強い学年だという。毎年1年生は3年生とペアを組み、新人交流大会に向けて直接指導を仰ぐのが恒例だ。「本当に真剣に演技を考えてくれたり、練習を見てくれたり、技ができなくて落ち込んでいる時もずっと隣にいてくれて。技術的なことはもちろん、気持ちの面で助けていただき、私も後輩に同じように接したいと思うようになりました」。寄り添ってくれた4年生に感謝の気持ちは尽きない。

79人の大所帯で「全員をスターにしたい」と願う師の想い

新体操競技部の全部員を「スターにしたい」と語る秋山さん(中央)【撮影:南しずか】
新体操競技部の全部員を「スターにしたい」と語る秋山さん(中央)【撮影:南しずか】

 新体操競技部ではインカレやオールジャパンといった大きな大会と並び、年に一度開催される研究発表会と学内発表会に全力を注ぐ。大会には一握りの選手しか出場できないが、発表会には全員が出演。一人ひとりが踊る楽しさを自分の体で目いっぱい表現し、輝く時間を持つことができる貴重な場となっている。

 オリンピック競技としての印象が強い新体操だが、そのルーツはバレエや他の舞踏のような舞台芸術にあるという。1920年代にドイツを中心に新体操の原型とも言える手具を使った自然体操やダンスが普及。第2次世界大戦後に旧ソ連で競技化された新体操を日本で普及させたのが、東京女子体育大学で学んだ藤島八重子さんと加茂佳子さんだった。

 競技としての強化を図る一方で、新体操が本来持つ芸術性や音楽に合わせて踊る純粋な楽しさを愛でる心は、創部から50年余り、脈々と受け継がれている。卒業生であり、現在、部長として指導にあたる秋山エリカ教授は、新体操がオリンピック正式競技に採用された1984年ロサンゼルス大会と1988年ソウル大会に個人種目で出場。日本代表のレベルアップに大きく貢献してきた。秋山さんは大会での勝利にこだわりつつも、部員がそれぞれ胸に抱く新体操への情熱をしっかりと受け止めている。

「せっかく新体操が好きだと言って入ってきてくれたのだから、全員をスターにしたい。その想いで79人全員が一斉に参加する、世界レベルの演技を作り上げたと自負しています。部員のレベルは様々ですが、全員が活動に意味を見出し、お互いを尊敬しながら成長してきた姿を是非、写真という芸術作品に収めていただければと思います」

アリーナを包み込む圧巻のエネルギーで観客を演技の世界へ誘う

クライマックスでは様々な手具を扱いながら宇宙が持つパワーを表現【撮影:南しずか】
クライマックスでは様々な手具を扱いながら宇宙が持つパワーを表現【撮影:南しずか】

 入念なリハーサルを終え、いよいよ迎えた学内発表会本番。部員たちは濃い藤色のジャージ姿で円陣を組むと、主将を務める4年生・北村あゆさんの掛け声に全員で「ハイッ!」と声を響かせ、心を一つに繋いだ。

 会場となった大学構内の藤村スポーツセンターAアリーナには続々と、100名を優に超える観客が集まった。秋山さんの挨拶が終わると、プロローグがスタート。音楽とともに色鮮やかなレオタードに身を包んだスターたちが登場し、アリーナ全体を包み込むように、無限の宇宙をイメージした壮大な演技の世界へと誘っていった。

 大勢で演技しながら、その動きは一糸乱れず。時には柔らかで繊細な印象を残し、時には新たなエネルギーが生まれるような力強さを感じさせる。変幻自在にリボンやフープなど手具を巧みに操りながら、体の隅々まで神経を鋭敏に研ぎ澄ませて迸(ほとばし)る感情や世界観を豊かに表現。観客はみな、演技が発する“気”に圧倒されてしまった。

 全員参加のパートと少人数によるパートの繰り返しが生む起伏やうねりが、アリーナに充満するパワーを増しながら演技は進む。4年生22人が濃紺と白のシックな衣装で踊る「希望」が終わると、いよいよクライマックス。宇宙の始まり・ビッグバンを思わせる圧倒的な演技は、まさに舞台芸術そのもの。ダイナミックさの中にも繊細さが同居する不思議な魅力で、観る者の心を奪い去った。

4年間を締めくくる演技の後に大きな笑顔「最高に楽しかったです!」

演技をする真っ最中にも自然と笑顔が溢れる北村さん【撮影:南しずか】
演技をする真っ最中にも自然と笑顔が溢れる北村さん【撮影:南しずか】

 発表会が幕を下ろし、観客が家路に就き始めてもまだ、北村さんの顔は紅色に上気したまま。そこにはこぼれんばかりの笑みが浮かぶ。部活を引退する寂しさよりも、入学してから4年、最後まで全力で駆け抜けた充実感が勝っているようだ、

「今年は『全員で勝つ』と『幸せを届ける』を部のモットーとして活動してきて、インカレとオールジャパンで優勝することができました。だから、全員で踊る最後の日でもある今日は、幸せを届ける意味でも全員が最高に楽しみたいという想いで踊りました。私自身、最高に楽しかったです!」

 コロナ禍の影響で活動が制限され、踊りたくても踊れない日々を経験したからこそ、後輩たちには「全員が誰一人欠けることなく踊ることの幸せ、この大学だからこそ味わえる大人数で踊る楽しさを受け継いでいってほしい」と願う。次期主将を務める3年生の荻野ねねさんも「私たちは入学式ができなかった学年。こうやって全員で楽しく踊れることを本当に感謝します」と続いた。

「どんな時も周りのことや部員のことを一番に考えて、真っ直ぐに引っ張ってくれた」先輩の姿に学んだという荻野さん。新チームを率いるにあたり、やはり大切にしたいのは踊りを楽しむ心だという。

 藤島さんと加茂さんが新体操の普及に努めた昭和から、元号を平成、令和と変えた今、新体操は文化として根付き、新たな世代へと着実に受け継がれている。

【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。皆様のご応募をお待ちしております。

■南しずか / Shizuka Minami

1979年、東京生まれ。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材をはじめ、大リーグなど主にプロスポーツイベントを撮影する。主なクライアントは、共同通信社、Sports Graphic Number、週刊ゴルフダイジェストなど。公式サイト:https://www.minamishizuka.com

南カメラマンがレンズで捉えた79人が織りなす圧巻の演技

撮影協力:Pictures Studio赤坂

(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

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