生産者と消費者、コロナ禍で希薄になった人の縁… 青山珈琲愛好会が繋ぐモノ【#青春のアザーカット】
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
そんな学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野の第一線で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。コロナ禍で試合や大会がなくなっても、一番大切なのは練習を積み重ねた、いつもと変わらない毎日。その何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)
10頁目 青山学院大学・青山珈琲愛好会 吉田光佑くん、高野瑞基くん
幼い頃からコーヒーのある食卓が家族の風景として記憶に残る。父が美味しそうに飲むコーヒーは香ばしく、小学生だった吉田くんを魅了した。海の遥か向こうからやってきた漆黒の飲み物は苦い大人の味がする。まだその苦みの良さは分からなかったが、父が満足そうに浮かべる笑みがうれしくて独学で淹れ方を覚えた。
香り高い飲み物の美味しさが分かるようになったのは中学3年生の頃。苦いだけだと思っていたコーヒーは、豆の産地や煎り方、淹れ方によって驚くほど表情を変える飲み物だった。その奥深さに引き込まれ、学びを広げていった高校時代。まるで必然だったかのように、吉田くんはコーヒーの名産地・東ティモール民主共和国(以下、東ティモール)と出会う。
「3年生の時にSGH(スーパーグローバルハイスクール)プログラムの一環で東ティモールを訪問する機会がありました。現地ではコーヒー農園に行かせてもらったんですが、実際に行ってみると、それまで勉強してきたことと全く印象が違ったんです。生産者は搾取される弱い立場にいるのではなく、自分たちが作るものに対して強い誇りや信念を持っている。1週間ほどの滞在でしたが、それを間近に感じたことは、僕に大きなインパクトを残しました」
農園の主から手渡された一袋のコーヒー豆。インドネシア東部に位置する島国で、生産者が愛情と誇りをたっぷり注いで育てたコーヒーを受け取った吉田くんは「僕に何ができるかといったら、東ティモールの生産者の思いを日本の消費者に伝えること。ちょっとした使命感みたいなものから、本格的にコーヒーの道がスタートしました」と話す。
生産者と消費者を繋ぐために「青山珈琲愛好会」を設立
途上国の農村部における開発経済を学ぶために、大学では国際経済を専攻。「消費者、特に若い世代が生産者の実際の姿を知らないことは明確だったので、その課題を解決する方法の一つとして、コーヒーカルチャーの発信源を作りました」と、大学に入学すると有志を募って「青山珈琲愛好会」を立ち上げた。「内部進学で人脈だけは困らなかったので(笑)」と謙遜するが、そう簡単に行動できるものでもない。
まずは、集まってくれた仲間たちにハンドドリップでの淹れ方を教え、生産国によって変わる味や香りを知ってもらった。その中で東ティモールの農園での経験を伝えながら「目の前の一杯に対して、より真剣に向き合ってもらうことから始めました」という。
美味しいコーヒーを淹れる、コーヒーに合う食べ物を見つける、SDGsという切り口でコーヒーを考える……。「コーヒー」というキーワードから浮かぶ様々なアイディアを基に愛好会が目指す方向性を探りながら、2019年夏、吉田くんは2度目の東ティモール訪問を実施。この時は約1か月滞在し、農園に滞在しながら一緒に作業をした。
「現地の人と一緒に、コーヒー豆を乾燥させる工程の品質管理をしました。もう少し乾燥させた方がいいんじゃないかとか、明日は何時に日が昇るからこうしようとか、そんな話をしながら。一緒に働くことで、より深いところで生産者の気持ちを感じることができたと思います」
普段何気なく飲んでいるコーヒーが、どんな工程を経て消費者の口に届くのか。コーヒーの木を育て、たわわになった実をコーヒー豆として世界中に出荷するまで、生産者はどれだけ大きな誇りを持って作業に取り組んでいるのか。日本に帰国した吉田くんは、単なるスタイルとしての「自己満足のコーヒー」ではなく、「生産者の想いを伝える」ことを愛好会の軸として、仲間たちとイベントや学園祭に参加しながら活動を続けた。
実家のある北千住で「LUSH-COFFEE Roaster and Laboratory」をオープン
活動の輪を広げ始めた矢先に見舞われたのがコロナ禍だ。イベントは軒並み中止。「後輩も入ってくるし、新しいことを盛り込みながら年間を通じたプロジェクトを考えていたんですけど、全部飛んじゃって」。愛好会は発足1年足らずで難局を迎えたが、「いっそ外に出られないなら」と個人で温めていた計画を実行することにした。コーヒーショップの出店だ。
生まれ育ったのは東京・北千住駅近くの商店街の一角。吉田家の長男として代々営む商売を繋ぐ想いもあり、実家の一部を改装し、コーヒーショップを開くことにした。コロナ禍のステイホーム期間に事業計画書を練り、資金繰りを思案。「遊び半分と思われたくない」と大学と並行して専門学校にも通い、バリスタやコーヒーインストラクターなどの資格を取得するなど、1年ほどの準備期間を経て2021年11月、大学3年生で「LUSH-COFFEE Roaster and Laboratory」の店主となった。
「東ティモールという生産国と日本の消費者を繋ぐ架け橋になりたいなと。ここで扱うコーヒー豆は東ティモール産のもののみで、集落別にお出ししています。どんな農園で作られたのか、どういう人が作っているのか、コーヒーを淹れながら、その一杯が誕生するストーリーをお客さんに伝えるようにしています。LUSHには“豊かな・芳醇な”という意味があって、コーヒーを通じて生産者と消費者の生活が豊かになる可能性があるという想いを込めました。生産者と消費者、東ティモールと日本、利用してくれるお客さん同士、ここを拠点にいろいろな繋がりが生まれればうれしいですね」
愛好会で想いを繋ぐ高野くん「コーヒーが持つ底力を知ってもらいたい」
一方、青山珈琲愛好会では創設メンバーや後輩たちが吉田くんの想いを繋いでいる。設立当時は20名ほどだったが、わずか3年ほどで200名を数えるまでに急拡大。その中で幹部の一人として活動の中心となるのが、1学年後輩の高野くんだ。高校の先輩でもある吉田くんの活動に興味を抱いていた高野くんは2020年4月、大学に入ると青山珈琲愛好会に入会。コロナ禍真っ只中での大学生活スタートとなったが、生産者と消費者を繋ぐという愛好会の活動に、コロナ禍で希薄になった人と人との繋がりを取り戻すヒントがあるように思えたという。
「入学式もないし、授業も全部オンライン。遠隔で人と会ってはいるけれど会っていないみたいな感じで、これじゃ全然共感もできないし仲良くなった感じもない。何があれば人は繋がれるんだろうと思った時、嗜好品でもあるコーヒーは興味を持つ人同士を一気に繋げる力があると気付きました」
コーヒーと真剣に向き合ってみると、いろいろなフレーバーがあり、淹れ方によっても味わいが変わる。「自分が好きなコーヒーはどこにあるんだろうという探究心もあって、どんどんハマっていきました」。自分が好きな味わいを求め、愛好会のメンバーたちとそれぞれコーヒー豆をブレンドしたり焙煎度を変えてみたり、オリジナルコーヒーを作りながら飲み比べている。
実際に街の八百屋やカフェとコラボをしてオリジナルコーヒーを限定販売したり、それぞれのコーヒーに合うフードペアリングを提案してみたり。昨年はコーヒー豆の種類や焙煎による違い、淹れ方などをわかりやすくまとめた小冊子を制作。「コーヒーは人と人とを巡り合わせ、幸せを生み出すことができる飲み物。コーヒーが持つ底力を知ってもらいたいという想いも込めました」と話す。
豆のブレンドや焙煎を検討する作業をする時は、吉田くんが営むLUSH-COFFEEに集まり、みんなでアイディアを交換することも。こういった何気ない時間もまた、コーヒーがもたらしたうれしい繋がりでもある。
吉田くん一個人の趣味・興味だったコーヒーとの繋がりが、東ティモールとの出会いを経て、愛好会設立やコーヒーショップ開店という形で、多くの大学生や地域の人々を巻き込みながら広がっている。「いろいろな意味で架け橋の役割を果たしていければ」。一杯のコーヒーから始まる繋がりを大切に、想いを込めてカップに注ぐ。
【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。
皆様のご応募をお待ちしております。
■南しずか / Shizuka Minami
1979年、東京生まれ。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材をはじめ、大リーグなど主にプロスポーツイベントを撮影する。主なクライアントは、共同通信社、Sports Graphic Number、週刊ゴルフダイジェストなど。公式サイト:https://www.minamishizuka.com
南カメラマンがレンズで捉えたコーヒーで繋がる様々な縁
「撮影協力:Pictures Studio赤坂」
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)