ラグビー強豪校で重なった2人の歩み それぞれの未来へつながる「日本一」の目標【#青春のアザーカット】
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
そんな学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野の第一線で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。コロナ禍で試合や大会がなくなっても、一番大切なのは練習を積み重ねた、いつもと変わらない毎日。その何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)
9頁目 京都成章高校ラグビー部新3年 奥田魁(かい)くん、本橋尭也(たかや)くん
奥田「尭也の方がずっと上のチームでやっていて、僕はそれを後ろから追いかける存在。いい見本として追いかけています」
本橋「僕はライバルとして見ています」
寒さが厳しい冬の京都。煌々と照らされるグラウンドでは空気さえも凍っているように感じるほどだ。無駄なく練習メニューが予定された2時間。新3年生を中心に動き始めたチームは、寒さをものともせずに体から湯気を立てながら楕円球を追う。
親元を離れ、寮生活を送る奥田くんと本橋くんはルームメート。中学時代は所属したラグビースクールこそ違えど、揃って中学1年から兵庫県スクール選抜に入り、チームメートとしてプレーした。ともに幼稚園からラグビーを始め、それまでも試合で何度か対戦。“見たことがあるアイツ”同士は、いつしかグラウンドを離れても友達になっていた。
とはいうものの、2人で示し合わせて強豪・京都成章高の門を叩いたわけではない。それぞれにそれぞれの理由がある。
本橋「僕は(総監督の)湯浅(泰正)先生に誘っていただいたのと、兄が通っていたということもあります。あと、ここ成章は先生の意見も聞きながら、選手が自分たちで考えて、自分たちでどうするかを判断する。プレーするのは選手である僕たちなので、自分には『自立』というスタイルが響きました」
奥田「僕はいろいろな学校を見学しに行って、その中でもチームの雰囲気がとてもやりやすそうだったので、成章に決めました」
何にも代え難いラグビーで得た仲間の存在「熱い人たちが多い」
高校入学は2020年4月。新型コロナウイルスが猛威を奮い、日本は全国的に緊急事態宣言の真っ只中だった。意気揚々と迎えるはずだった新生活はいったんお預け。実際に通学し始めたのは6月だったが、ラグビー部への入部を決めていた2人は4月からオンライントレーニングに参加。「普段であればできない体幹を鍛えたり、基礎的な腹筋をしたり、体のコアを固めることができました」(本橋)と制限された環境の中でも成長への道を探った。
グラウンド練習が解禁された時の気分は格別だった。「やっぱりみんなでグラウンドに出てラグビーをした時に楽しいと思ったし、外で体を動かせることがうれしかったです」と振り返る奥田くんは、ラグビーというスポーツの魅力についてこう話す。
奥田「僕は小学校と中学校で個人競技の水泳も経験しているんですけど、チームでやるラグビーの方がやり甲斐があるし、やっぱり楽しいです」
1チーム15人が生身の体でぶつかり合いながら、相手のディフェンスを押しのけて、ボールを前方のゴールラインまで運ぶ。チームワークとコミュニケーションが肝心要のスポーツは、「15人のうち1人でも欠けたらダメ。1人がサボったら誰かに迷惑が掛かる。チームとしてみんなで体を張るスポーツなので、僕は男として格好いいなと思います」と、本橋くんに仲間を思いやる気持ちと責任感を教えてくれた。
もちろん、楽しいことばかりじゃない。2人ともラグビーを嫌いになりかけたことは「何回もあります」と笑う。それでも今日まで続いているのは「仲間の言葉。熱い人たちが多いので」(本橋)。そして今は「日本一になる」という目標があるからだ。
グラウンドとスタンド… 花園で味わったそれぞれの経験
京都成章高は、年末年始の風物詩でもある全国高校ラグビー大会、いわゆる“花園”の常連校で、準々決勝で敗れた前回大会まで8年連続出場中。2年前、準優勝を飾った時の立て役者が本橋くんの実兄で、現在は帝京大で活躍する拓馬さんだった。「大きな影響を受けた目標となる人」という兄に続き、本橋くんも前回大会では2年生ながらスタメン出場。幼い頃から憧れた舞台は「やっぱり違うんですよね、全てが」と振り返る。
本橋「コロナで観客は少なかったんですけど、緊張感がありました。普段いろいろなグラウンドで練習することもあるんですけど、花園はみんなで目標としていたグラウンド。そこにいざ立つことができて、緊張感が一番強かったですけど、うれしさも強かったです。試合中は勝つことだけを考えてプレーしていました」
一足先に花園の芝を踏みしめた仲間の姿をスタンドから見ることになった奥田くんにとっても、決して無駄な経験にはならなかった。
奥田「メンバー入りできなくて悔しい気持ちはいっぱいあったんですけど、観客席から見て感じるものもいっぱいありました。今年は自分が体を張って頑張りたいと思うし、12月には自分も花園に立ちたいと思いました」
快進撃を続ける新チーム、伝統の“ピラニアタックル”も健在
1月から始動した新チームでは、奥田くんは主にSO(スタンドオフ)、本橋くんはCTB(センター)とFB(フルバック)を務める。
「SOは試合をコントロールするポジションなので、FW(フォワード)とコミュニケーションを取ったり難しいこともあるんですけど、うまくいった時はすごくうれしいし楽しいです」と話す奥田くんは、1学年上で主将だった大島泰真さんを手本としてきた。「ゲームメークがすごく上手い。僕もあんなゲームメークがしたいです」。同志社大へ進学する先輩から得た学びを自分流にアレンジして、今年のチームに生かすつもりだ。
リーグワン・神戸製鋼のCTBラファエレ・ティモシー選手が見せる絶妙なハンドリングが好きだという本橋くん。2人いるCTBの中でもSOに近い第1センター(12番)を得意とし、「SOからパスをもらったら、サインプレーで仕掛けることもできるし、フィジカルで当たりにいくこともできるし、パスもできるし、キックもできる。すべてをこなせての12番なので、やっていて楽しいです」と目を輝かせる。SO奥田くんからのパスがCTB本橋くんにつながり、トライが生まれる可能性は十分だ。
新チームは京都府の高校ラグビー新人戦で白星を重ね、高校ラグビー近畿大会でも快進撃を続ける。食らいついたら離さない伝統の“ピラニアタックル”も健在。本橋くんは「タックルの出足、入るまでのスピードは負けません。僕たちはやることが明確になって盛り上がれば、どこのチームにも負けないんで」と頼もしい。
奥田くん「支えてくれる人に恩返しを」 本橋くん「誰かに目標とされる選手に」
自分たちの代で京都成章高初となる花園優勝を飾るという目標は一緒だが、その先の姿はそれぞれにそれぞれの絵を描いている。
奥田「僕の目標はまだ明確ではなくて、正直、大学で続けるかどうかも迷ってます。ただ、寮に入って成章でラグビーができているのも、周りの支えがあるから。支えてくれている人たちに、恩返しできるようにしていきたいです」
本橋「僕はラグビーを続けてリーグワン、日本代表を目指します。今、僕たちが目標とする選手がいるように、僕も誰かに目標とされる選手になりたいです。僕のプレーで誰かを勇気づけられる選手になりたいと思います」
小学生で存在を知り、中学生で友達となり、高校生でチームメートとなった2人。高校卒業後はそれぞれにそれぞれの道へ羽ばたくことになりそうだが、その前に「日本一」という生涯共有できる大きな結果を、想い出の1ページに刻みたい。
【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。
皆様のご応募をお待ちしております。
■南しずか / Shizuka Minami
1979年、東京都生まれ。東海大学工学部航空宇宙学科、International Center of Photography:フォトジャーナリズム及びドキュメンタリー写真1か年プログラムを卒業。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材を始め、主にプロスポーツイベントを撮影するフリーランスフォトグラファー。ゴルフ・渋野日向子の全英女子オープン制覇、笹生優花の全米女子オープン制覇、大リーグ・イチローの米通算3000安打達成の試合など撮影。米国で最も人気のあるスポーツ雑誌「Sports Illustrated」の撮影の実績もある。最近は「Sports Graphic Number Web」のゴルフコラムを執筆。公式サイト:https://www.minamishizuka.com
南カメラマンが見た高校で重なったラガーマン2人の一コマ
「撮影協力:Pictures Studio赤坂」
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)